人生100年と言われる時代。定年を過ぎた後も長い時間を快適に過ごすためには、“定年前”の心構えがとっても大切。過度な楽観は禁物ですが、決して悲観しすぎることもありませんーー。
夫が定年を迎えたら、そのときに入る退職金で海外旅行をしたい、ブランドもののバッグを買いたいなどと、使い道をあれこれ考えたことはないだろうか?
「多くの人が、『退職金は長年働いた自分へのごほうび』と勘違いしていますが、あくまでも『給料の後払い』です。数千万円という単位で振り込まれた通帳を見ると、豪華な旅行に出かけてしまったり、投資をしてしまったりして、病気や介護が必要なときにお金がない、という話をよく聞きます。定年後にまつわる“勘違い”をなくして、“定年前”の今から夫婦で準備をすれば、安心した生活を送ることができますよ」
そう語るのは経済コラムニストで、著書に『定年前、しなくていい5つのこと「定年の常識」にダマされるな!』(光文社)がある大江英樹さん。大江さんは、自身が大手証券会社に定年まで勤務した経験をもとに、資産運用やライフプランニングに関する講演や執筆活動を行っている。
大江さんによれば、“定年前”の準備は定年のタイミングの5年前には着手しておくことが、快適な老後につながるという。
夫には65歳まで再雇用で働いてもらいたいと妻たちは思うが、「再雇用で働くのはおすすめできません」と大江さんは言う。
「私も半年間だけ再雇用で働きましたが“やる気”を維持するのがとても大変でした。定年後も現役時とさほど変わらないイメージで働けると思われがちですが、役職から外れ、責任と自分の裁量でできる仕事の範囲が狭くなることが多いのです。そのような環境で5年も過ごしたら、ストレスがかかり、心身に悪影響を及ぼすことも。転職や起業をしたいのであれば、60歳はひとつのタイミングです。夫がやりたいことをしてもらったほうが家庭円満にもつながります」(大江さん・以下同)
そこで、定年前の「仕事」の準備について大江さんが解説してくれた。
■やるべきこと
【資格取得など、働き方を変える準備をする】
厚生年金や企業年金を受け取れるサラリーマンは現役並みに稼ぐ必要はないという。
「夫婦で月8万円ぐらい稼げれば十分でしょう。新しい仕事にチャレンジするための知識を得るなど、定年前から資格取得の勉強をしたり、人脈を築いたりするなど、定年後に向けて準備することが大事です」
【70代でも働ける健康状態をキープする】
働くことはお金のこと以外にも効果がある。
「現役時代のようなストレスがたまる働き方ではなく、自分のペースで無理なく働く環境であれば、健康や精神面でもよい影響が出てきます。人と会うためには身だしなみを整えますし、外出するとかなり歩きますので、いい運動にもなります」
そのためにも、健康な体を維持することは欠かせない。
■やってはいけないこと
【いまのポジションで70歳まで働けると想定する】
70歳まで定年延長が可能になると、60歳以降も同じ職場で働けると思う人が増えているが注意が必要。
「それまで管理職だった人は、平社員となって部下が上司になることもあります。給料も今までの半分ぐらい減額されることもあり、よい条件ではないことを覚悟したほうがいいでしょう」
【定年後も絶対に働かなくては、と悲観する】
70歳までは必ず働こうという風潮が強まりつつあるが、年金で生活費がまかなえるという選択肢も。
「たとえば、シルバー人材センターに登録して週1〜2日、庭の剪定やふすま張りなど自分ができることで小遣い稼ぎする程度に働き、ほかの時間は趣味を楽しむ過ごし方もいいと思います」
すべての再雇用がダメというわけではない。工場で技能職として働く人のように、現役時とほぼ同じ仕事を続けられるケースもある。
「『何をやりたいのかわからない』という夫には、無理に転職や起業を勧めるのではなく、やりたいことをじっくり考えてもらうことが大事です。今まで取材で会った人の中には自分の趣味を仕事にしている人がたくさんいます」
「女性自身」2021年3月9日号 掲載