「自分で体操をやってきて、まず気づいたのは『風邪をひかなくなったな』ということでした。それに内臓の病気にも無縁に。元気に過ごすことができるのは、まず間違いなく、この体操のおかげだろうと、私は思っています」
こう話すのは看護師の小池妙子さん(83)。
30代で臨床現場を離れて以降、看護教育に携わってきた小池さんだが、60代になって間もなく体力の衰えを痛感。そこで、看護師ならではの知識と経験を生かし、さまざまな体操をあみ出しては、毎日のように続けてきた。今月、その内容を『肺炎を遠ざけ長生きする トントン肺たたき健康法』(サンマーク出版)という1冊にまとめ、出版も果たした。
独自の体操を始めておよそ20年。その効果は絶大で、80代になったいまも、小池さんは現役で、看護専門学校の教壇に立ち続けている。
「週に1回だけだから」とご本人は謙遜するが、都内の自宅から横浜の学校まで、片道1時間半かけて電車で通う。90分間の授業の間は「座っていては声に迫力が出ないから」と、立ちっぱなしだというから、驚きの83歳だ。
「体操を始めた当初は、やっぱり足腰を鍛える筋トレのようなことからスタートしたんです。でも、筋肉というのは体の内側にもあって、外側ばかりを鍛えていてもしょうがないのではないかな、そう思うようになって」
そこで、小池さんは内臓まわりの筋肉を鍛える体操の考案にも着手。なかでも、このとき着目したのが「残気」だった。残気とは、ふだんの呼吸で息を吐いたあと、吐き出しきれずに肺の内部に残ってしまう二酸化炭素を多く含んだ空気のこと。
「高齢になると、肺の周囲にある呼吸筋、それに肺そのものも衰えて、残気量が増加していきます。残気が増えすぎると、肺のガス交換の能率はガクンと落ち、呼吸が浅くなったり、息苦しさや呼吸の乱れのもとになる。そればかりか、全身に酸素が行き渡りづらくなることで、胃腸の調子が落ちたり、疲れやすくなったり、イライラしたり……心身の不調につながっていくのです」
増えすぎた残気を追い出すために、小池さんは、患者の胸や背中をトントンと軽く、リズミカルにたたいて、痰を吐き出しやすくする「タッピング」という看護の技術を応用。こうして生まれたのが、自著のタイトルにもなった、胸をトントンたたく体操だったのだ。
「たたくその振動で、肺のなかの残気が外に出ていきやすくなります。また、胸をたたくという物理的な刺激が、衰えかけた肺や呼吸筋を刺激し、活性化するのです」
小池さん自身は、先述のようにさまざまな体操を組み合わせ、じっくり全身を鍛えたうえで、胸をトントンしているというが……。
この、肺の残気を追い出す体操自体は、とっても手軽。次のような事前の健康チェックと、食後や夜の入浴後は控えるなど、いくつか注意点はあるものの、高齢者はもちろん、老若男女、誰もが安心して取り組める。
■肺トントンの前にチェック
【1】疲労、熱、下痢などの体調不良がないこと
【2】血圧に異常がないこと
【3】運動の前後で、水分補給を十分にすること
【4】椅子に座ってするときは、正しい椅子に座ること(安定して転倒のおそれがなく、ひじ掛けがある椅子がおすすめ)
【5】呼吸を止めないこと
【6】運動によって、体に負荷がかかりすぎないこと
■肺トントン体操
【1】まずは、口を軽く閉じて、鼻から息を吸います。つぎに、左の手のひらを軽くお椀のようにして、口から息を吐きながら右胸の肋骨のあたりを40回たたきます。理想は1秒に2回のペース。手を上下に往復させて、位置を変えながらたたきます。その後、また鼻から息を吸い、口から吐きましょう。
【2】【1】と逆の動きをします。鼻から息を吸い、右の手のひらを軽くお椀のようにして、口から息を吐きながら左胸の肋骨のあたりを40回たたきます。終わったら鼻から息を吸い、最後に胸の真ん中、気管支のあたりも息を吐きながら40回たたきましょう。こちらも、手を上下に往復させながらたたくとよいでしょう。
「お椀形にした手のひらで、左右の胸を40回ずつ、そして胸の中央部分、気管支のあたりを40回、それぞれ“イタ気持ちいい”と感じるぐらいの強さで、トントンとたたいてください」
1秒間に2回というのが、たたくリズムの目安というから、左右と中央、3カ所合計でも、所要時間はわずか1分。これで健康な肺を取り戻せるなら、今日からトントン、やらない手はない!
「女性自身」2021年3月9日号 掲載