虫が苦手、嫌いだという人は多い。しかも、過剰なまでに忌み嫌う人が増加している。コロナ下で室内の換気が徹底されているため、オフィスで虫の侵入に大騒ぎ、という光景もこの夏はたくさん目撃されたことだろう。しかし、私たちはなぜ虫を嫌うのか――。
進化生態学が専門の、東京大学大学院農学生命科学研究科の深野祐也助教(附属生態調和農学機構)は、そんな“虫嫌いの要因”を解き明かすべく、全国の20~79歳の男女1万3千人に、オンラインによる大規模調査を実施した。
「アンケートでは、ゴキブリやクモ、トンボやテントウムシなど、13種の虫が屋外にいる写真と室内にいる写真をみせ、負の感情の強さを評価。合わせて、田舎に住んでいた居住歴なども調査しました。その結果、都市部に暮らしている人ほど、虫に対して極端なまでの嫌悪感を持っている傾向があることが判明しました」(深野助教・以下同)
深野助教は、都市化によって「2つのルート」で虫嫌いの人が増加していることを突き止めた。1つめは、急激に環境が変わり、相対的に虫の数は減っているものの、その分、家やオフィスなど“室内で虫と出合う機会が増えたこと”。2つめは、虫に接する体験が減少して、“虫の種類が識別できなくなったこと”が要因だと深野助教は話す。
「興味深かったのは、虫を識別する能力が高い人は、ゴキブリなど『嫌悪を感じる虫』とテントウムシなど『嫌悪を感じない虫』がはっきりしていましたが、虫の識別能力が低い人はテントウムシにも高い嫌悪感を持っていることがわかりました。アリなど身近な虫に対しても、屋内でみると強い嫌悪の感情を持つ人が多かったのも意外でした。唯一カブトムシだけは、屋外と屋内のどちらでみたときも嫌悪感に差がありませんでした。室内で飼う文化が根付いているからでしょう」