「人生の後半戦を充実させるため、『卒婚』を選択する夫婦は増えています。この形態は『いいとこどり』といえそうです」
こう話すのは約3万件の夫婦の問題に向き合ってきた離婚コンサルタントの池内ひろ美さん(59)。
「卒婚」とは、離婚せずに夫婦関係を卒業すること。同居するケースもあるが、多くは別居しお互いに束縛や干渉し合うことなく生きる、新たな選択である。池内さんは「卒婚」のメリットをこう解説する。
「離婚するには財産分与の問題や、お互いの両親や周囲への報告をどうするか、決めるべきことが多々あり、エネルギーと覚悟が必要です。一方、『卒婚』であるなら束縛や干渉からは解放され、不動産や預貯金、死亡保険金などの相続権は担保されるのですから、生活力のない側には有利といえます」(池内さん・以下同)
■「卒婚」は孫育てからの解放が生んだ新たな夫婦の形
「卒婚」という形態が生まれた背景には、昨今の少子化が影響していると池内さんは指摘する。
「いま『卒婚』を考え始める50代は、かつては孫が生まれ祖父母の役割が始まる年代でした。必然的に夫婦が協力して孫の世話を担うため、別れることを考えるタイミングがなかったのです」
しかし近年の少子化から祖父母の役割が巡ってこなくなり、人生の後半を自分のために謳歌したいと考えるようになったという。
「卒婚することで夫の支配や束縛、家事からも離れ、自由な時間を手に入れることができます。仕事を極めるもよし、社会貢献活動や趣味に励むもよしで、人生を充実させることができます」
厄介なのは、新たなパートナーがあらわれたとき。結婚話などが持ち上がったときはどうするべきだろうか。
「何もかもを夫に打ち明けることは避けましょう。ひとたび『離婚』という話し合いになったとき、有責配偶者にされて慰謝料などを請求されてしまう恐れもあります。多くの場合、新たな恋人とすぐさま入籍することは考えないほうが賢明です。生活力のない相手ならなおのこと。入籍を迫られても、5年は様子を見ましょう」
池内さんは、卒婚は期限付きで捉えるほうが賢明だと言う。
「夫婦のどちらかが病いを患ったりけがをしたり、あるいは介護が必要になったとき、再び同居する可能性があることも頭の片隅に置いておきましょう。そのときのためにも、夫とは離れていても円満な関係をキープすることが大事です。離れて暮らすと、適度な距離感や緊張感から、お互いのよさやありがたみを再発見できるケースもあります」
卒婚ライフを謳歌し気が済んだら、家に戻る道も。だからいざというときは自然に支え合える関係をキープすることが、失敗しない卒婚のルールのようだ。卒婚で幸せになった妻の事例を見ていこう。