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10月13日、河野太郎デジタル大臣は、24年秋に現在の健康保険証を廃止し、マイナ保険証に一本化すると表明しました。マイナ保険証とはマイナンバーカードに保険証の機能を追加して、病院などで保険証として使うもの。受付けがスムーズになる、特定健診などのデータが閲覧しやすいといったメリットがあるといいます。

 

ですが、マイナ保険証を使うには専用の読取り機が必要です。日本には約23万の医療機関がありますが、10月16日時点で読取り機が設置済みなのは約7万3千カ所。約3割にとどまります。読取り機の購入には補助金が出ますが、システム導入などの手間は医療機関にかかっています。コロナ禍で疲弊する病院が多いなか、あと1年で大小さまざまなすべての医療機関に設置できるのでしょうか。

 

また医療費にも問題があります。マイナ保険証が使える病院は、使えない病院より医療費が高くつきます。3割負担の方が初診の場合、マイナ保険証の方は6円、従来の保険証だと12円上乗せされます。マイナ保険証の使えない病院ではこうした上乗せはありません。

 

一方、マイナンバーカード自体の交付率は22年10月18日時点で50.1%。22年末までにマイナンバーカードの新規取得等、マイナ保険証の利用申込み、公金受取口座の登録を行うと2万円相当のマイナポイントがもらえる“アメ”があって、やっと半数です。デジタル庁の調査によると、取得しない理由の第1位は「情報流出が怖いから」。取得率を上げるには、デジタル行政への信頼を回復するしかないでしょう。しかし国は、信頼回復への努力ではなく、アメ作戦をやめ、マイナ保険証に一本化し、現在の保険証を廃止するという“ムチ”作戦に打って出るようです。

 

ムチの一端は、自治体の交付金にも表れています。23年度に国が配る「デジタル化交付金」は、マイナンバーカードの交付率が全国平均以上の自治体しか申請できません。交付金が欲しいならカードの交付率を上げろと言わんばかり。

 

そもそも現在の保険証を廃止できるのかも疑わしいと思います。認知症や障害のある方など自分でマイナンバーカードの申請手続きができない方はどうすればいいのか、国は全く検討していないでしょう。ムチをちらつかせれば、アメのある今年中に手続きする方が増えるだろうという、行き当たりばったりな施策としか思えません。

 

マイナンバーカード関連に国は約3兆円、国民1人当たり約2万円の予算を使っています。コロナ禍で大変だったとき、物価高で苦しい今、1人2万円あれば助かるのに……と思いませんか。国はマイナンバーカードを22年度中にほぼすべての国民に普及させたい考えです。そのため現在の保険証を廃止するとしたら……。こんな国民の生活を無視した政策に、私は断固反対します。

経済ジャーナリスト

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