安くて栄養満点だった卵が一転、高価な食材になりつつあるーー。その爆上がり度合いは、農水省の食品価格動向調査の「全国平均小売価格」に見て取れる。
’23年1月9〜11日の鶏卵(サイズ混合、10個入り)1パックの価格は244円。2年前、’21年の同時期は204円だったため、なんと40円も高くなっているのだ。流通事情に詳しい経済評論家の加谷珪一さんは次のように話す。
「昨今の卵価格の爆上がりには、2つの事情が重なっています。一つは全世界的な資材価格の高騰によって、エサ代、光熱費、輸送コストなどの経費全般が上昇したこと。そこに、鳥インフルエンザ拡大の影響が加わったという流れです」
鶏卵は自給率97%(’20年度)と、ほぼ国内生産のみの食品だ。だが少子高齢化によって消費量が減っており、養鶏業者は生産量を抑えながら需給バランスを保ってきたと加谷さんは言う。
「資材高騰と鳥インフルエンザを前に、一気に価格を上げざるをえない状況に直面したのです」
鳥インフルエンザが収まれば、卵の価格も元に戻るのだろうか。
「後継者が不足して高齢化している業者も多く、今回の鳥インフルが収まっても、廃業や撤退をしてしまうケースがありえます。騒動前の経営規模に戻せなければ、価格が高い水準のままで落ち着いてしまう可能性も否定できません」
“物価の優等生”の異常事態の余波は多くの食品に及ぶことに。すでに兆候は見え始めている。
「原材料に卵を多く使うマヨネーズや、スクランブルエッグが出るファミレスのモーニング、ゆで卵を使うサンドイッチなどが値上げや減量を発表しています」
マヨネーズの老舗のキユーピーは4月1日から「キユーピー マヨネーズ450g」を520円(税込み)と45円もの値上げを行う。調味料大手の味の素も、4月1日から「ピュアセレクト マヨネーズ」など全5品種を約5〜9%値上げすると発表。ファミリーレストラン大手のロイヤルホストは3月8日から、スクランブルエッグがメニューに含まれる「モーニングプレート」と「ロイヤルホストモーニング」を各税込みで55円値上げ。北海道旅行のお土産の定番「白い恋人」で有名な石屋製菓は、主力商品の「白い恋人」などで「生産数の維持が難しい」として「品薄」を発表している。
また、コンビニ大手のセブン-イレブンでは1月31日より、サンドイッチなど約10商品の「規格の見直し」が実施されている。たとえば「ハムとたまごのサンド」は「ゆで卵を減量し、ハムを増量」。加えて「セブンプレミアム 半熟煮たまご」などの約15アイテムで「販売を休止」しているのだ。
同社の広報担当は「現時点での原状回復は未定ですが、鳥インフルエンザの状況を確認しながら、対応して参ります」と回答した。
すでに判明している値上げだけを見ても、家計への影響は深刻だ。仮に卵を1人1日2コ食べていて、マヨネーズを月に1本購入し、レストランのモーニングを月2回利用している夫婦2人世帯の場合、年間の家計負担の増加は9千円を上回る計算になる。加谷さんは、卵の値上げのさらなる余波を次のように見通す。
「マヨネーズからサンドイッチ、洋菓子……と加工頻度や付加価値の高い商品へと値上げの段階が徐々に移ってきています。発表されていない食品でも、小麦とバター、卵と値上げ食材を使うケーキ、卵を使うラーメンなどは、明日にも値上げに踏み切る社が出てもおかしくありません」
今後はさらに、次のような分野にも値上げが広がる恐れがあると指摘する。
「生産コスト全般が上がっているのは間違いないため、野菜の価格が上昇する可能性があります。卵と並んでスーパーの安売りの目玉である『もやし』さえ値上げが考えられます」
あらゆる食品が値上げに見舞われるなか、食費の負担増分は、それ以外のコストカットでカバーすることを考える必要がありそうだ。