(撮影:秋月 雅) 画像を見る

京都市左京区、ビル一室に構えられた小さなクリニック。ここで診察にあたる91歳の心療内科医の言葉が話題となっている。

 

心はカラッと、人づきあいはサラッと、人生はさっぱりとーー人間関係や健康、老いや不調との向き合い方など、さまざまな日常に細やかに光を照らした言葉の数々に、「前向きになれた」「ほっとした」という声が寄せられている。

 

藤井英子医師のはじめての書籍『ほどよく忘れて生きていく』(サンマーク出版)から、一部抜粋、再構成してお届けする。

 

■「衰えること」をほどよく忘れる

 

<衰えていくことを必要以上に恐れずにほどよくつきあっていきましょう。認知症の心配もほどほどに>

 

年齢を重ねてくると認知症への不安を口にされる方も増えてきますが、もし本当に心配なら、まずは専門医に診てもらうのが一番の早道です。介護やご家族のお世話がなくなって、やることがなくなったことを契機に認知機能の低下が一気に進むという方の話も聞きます。

 

私のクリニックでも、ご家族の方々の不安をお聞きして不安解消のためのお手伝いをすることもありますが、多くの場合は、きちんと対処すればよくなります。

 

認知症にならずとも、加齢によって多少なりとも脳の萎縮は生じ、認知機能は衰えるものです。「忘れる」ことが増えていくのは自然な現象。それを過度に気にしても仕方ありません。誰もが通る道として、私自身もほどよくつきあっていきたいと思います。ただ、年齢に関係なく、日ごろから衰えることへの予防策を講じることは大切です。

 

脳トレもいいですが、まずはからだをつくる食事面。たとえば、大豆製品はコレステロール、高脂血症値を下げることに役立つという研究結果もあり、ナットウキナーゼは血栓の防止によい働きをするようです。緑黄色野菜、オリーブオイル、青魚も、積極的に摂取しましょう。よく噛んで食べ、手先を動かし、適度な運動を。私のクリニックでも、患者さんには、そのように養生についてお伝えしています。

 

そして、孤立せず社会との関わりを持つようにし、過去のことや心配事は、ほどよく忘れて、楽しいことや新しいことに挑戦します。一緒に実践するご友人がいると、 なおいいですね。できることをひとつずつ、はじめてみませんか?

 

■「やる気を出そう」を忘れる

 

<ダラダラしてしまうときは、小さなことに手をつけてみます。やれば、やる気が起きてきます>

 

「どうしてもやる気が出ない」と言う患者さんもおられます。

 

やる気を取り戻すには、できない自分を叱咤激励するよりも、日常生活の改善のほうがずっと大切です。

 

すなわち、心をなんとかしようとするのではなく、からだを見直すのです。

 

食生活の改善では、神経伝達物質であるドーパミンの生成を助けるアミノ酸や、脳の疲労を回復させてくれるビタミンB群を積極的に摂取しましょう。また、睡眠の質を上げ、日光を浴びることで、脳を安定させたり活性化させたりする神経伝達物質・セロトニンも活性化します。

 

からだを動かすことは、脳への血流量も増加させます。何かしらやらなくてはならないことがあるときは、少し準備運動をするとよいでしょう。

 

以前、70代の患者さんに「NHKのラジオ体操を1日に1回やるだけでも脳が活性化されますよ」とお伝えしたら、次にいらしたときに「さっそくやってみたら、朝ダラダラすることがなくなりました」と。快活で、明るくなられたのが印象的でした。

 

また、人は、やる気が出たから何かをやりはじめるのではなく、やりはじめたことに対してやる気が出る性質を持っていることが、脳科学の研究でもわかっています。大きなことからやろうとせず、小さなことから手をつけること、あれこれ考える前にとにかく手をつけてしまうのも効果的です。

 

やる気はあとからついてくるものなのですね。

 

■「無病息災」を忘れる

 

<人生後半は、無病息災より一病息災。年齢を重ねてなお完全を求めるより、今あるものに目を向けて、感謝の毎日を過ごしたいものです>

 

神社のお守りにあるのは「無病息災」ですが、年を重ねたら一病息災だと思います。

 

一病息災とは、「ひとつくらい病気があるほうが、かえってからだのことを気遣うことができて、結果長生きもできる」という意味です。

 

病気になったり、心が疲れ果てて起きられなくなったり、年齢を重ねてできないことが増えてはじめて、「ああ、健康って素晴らしかったんだ」「自分に無理をさせてたんだな」と気づくわけですが、年をとって持病が出てきたり、飲む薬が出てくると、健康に気を遣うようになります。

 

病院にも通うので、新たな病気を早く見つけることができて、結果長生きできる――というわけです。

 

無病息災ではなく一病息災。

 

病気にならないようにすることも大切ではありますが、病気になったからといって自分を放り出したり、人生をあきらめたりすることはありません。

 

そのままの自分をいたわりながら、生きていきたいと思うのです。

 

私はおかげさまでこれまで大病はしていませんが、70歳を越えて膝を痛めたことから、正座ができなくなりました。大学時代は茶道部でしたので、お茶会に顔を出せなくなったのは残念でしたが、それまで以上に慎重にいたわるようになりました。

 

年齢を重ねていくうちに、誰もが皆、どこか調子が悪い部分を抱えるようになります。年齢を重ねてもなお完全でいようとしなくていいのです。

 

人は、ないものではなく、あるものを見ることができたら、自然と自分に「ありがとう」を伝え、いたわることができるのだと思います。

 

【PROFILE】

藤井 英子(ふじい ひでこ)

漢方心療内科藤井医院院長。医学博士。現在も週6で勤務する91歳の現役医師。

1931年京都市生まれ。京都府立医科大学卒業、同大学院4年修了。産婦人科医として勤めはじめる。結婚後、5人目の出産を機に医師を辞め専業主婦に。育児に専念する傍ら、通信課程で女子栄養大学の栄養学、また慶應義塾大学文学部の心理学を学ぶ。計7人の子どもを育てながら、1983年51歳のときに一念発起してふたたび医師の道へ。脳神経学への興味から母校の精神医学教室に入局。その後、医療法人三幸会第二北山病院で精神科医として勤務後、医療法人三幸会うずまさクリニックの院長に。漢方薬に関心を持ち、漢方専門医としても現場に立ってきた。89歳でクリニックを退職後、「漢方心療内科藤井医院」を開院。精神科医と産婦人科医としての視点から、心のケアに必要な漢方薬を処方することを人生の役目とし、日々診察に当たる。「心配には及びませんよ」「大丈夫ですよ」という声かけに「それだけでほっとした」という声も多い。

精神保健指定医。日本精神神経学会専門医。日本東洋医学会漢方専門医。

 

【INFORMATION】

 

共感呼ぶ91歳の心療内科医の言葉…大切なのは日常生活の小さな一歩「やれば、やる気は起きてくる」
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『ほどよく忘れて生きていく』(サンマーク出版)
https://www.amazon.co.jp/dp/4763140353

 

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出典元:

WEB女性自身

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