奥歯の噛み合わせを失うと、認知症のリスクが高まる(写真:mits/PIXTA) 画像を見る

九州大学の研究によって、奥歯のかみ合わせを失うと認知症のリスクが上がることが示唆された。特に年齢を重ねた女性は、歯周病により奥歯を失いやすいというが――。

 

「奥歯が欠損し、かみ合わせが悪くなると、アルツハイマー型認知症の発症リスクが高くなることが、私たちの調査で示唆されました。認知症のリスクを低減するためには、日ごろから正しい口腔ケアを行い、健康な奥歯とかみ合わせを維持することが重要です」

 

そう警鐘を鳴らすのは、九州大学病院(義歯補綴科)教授の鮎川保則さん。

 

これまでも、歯の本数が減少すると認知症を発症するリスクが高まるという報告はあった。しかし、今回の研究で新たにわかったのは、「“奥歯のかみ合わせ”がアルツハイマー型認知症の発症と関係している可能性が高い」という点だ。

 

「私たちは今回、65歳以上の約2万2千人のレセプトデータを分析。奥歯のかみ合わせの状態と、アルツハイマー型認知症の発症時期を照らし合わせました。その結果、奥歯(奥から4本目まで)のかみ合わせが全てそろっている人に比べ、歯が欠損してかみ合わせが一部失われた人は、認知症のリスクが1.34倍高く、前歯も含めて上と下の歯がかみ合わない人や歯が全くない人は、1.54倍高いことが明らかになったのです」

 

かみ合わせがない人や歯がない人が、必ず認知症になるというわけではないが、“奥歯のかみ合わせ”が関連するであろう理由について、鮎川さんはこう説明する。

 

「人は食事をするとき、上下の奥歯をかみ合わせることで食物を砕き、“食塊”という塊にして飲み込みやすくします。ところが奥歯が欠損してかみ合わせが不十分だと、うまく“食塊”ができません。どうしても軟らかいうどんやお粥など炭水化物がメインの食事になりがちで、その結果、筋肉をつくる栄養素のタンパク質が不足してしまうのです」

 

タンパク質が不足すると、筋肉が落ちて足腰が弱くなり引きこもりがちに。飲み込む力も弱まり、人との会話や刺激も減るので、認知症リスクが高まるのだという。

 

運動やコミュニケーションにまで影響する“奥歯”だが、年齢とともに欠損するリスクも高まる。

 

「歯を失ういちばんの原因は、15歳以上の全年齢で2人に1人がかかっている“歯周病”です。歯と歯茎の隙間の歯周ポケットに“プラーク”が入り込んで炎症がひどくなると、歯を支える骨が溶けて歯がグラグラになるのです」(鮎川さん、以下同)

 

気づいたときには“手遅れ”ということが少なくないという。

 

「歯周病が進行すると、認知症のみならず心筋梗塞や動脈硬化などの原因にもなるので、まずは日々の口腔ケアを見直してほしい」

 

特に女性の場合は、ホルモンバランスが崩れる妊娠・出産・閉経というタイミングで歯周病になりやすい。

 

「妊娠して女性ホルモンが増えると、歯茎が下がりやすくなり、それにともない増加する歯周病菌もあります。また、女性ホルモンが減少する更年期以降は骨がもろくなりやすい。その結果、歯を支える骨が弱くなり、歯周病のリスクも上がるのです」

 

放置すると恐ろしい歯周病、予防するには具体的に何をすればよいのだろうか。

 

後編では奥歯を守る習慣を解説する。

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