不妊治療保険適用で“手抜き診療”増える?専門家が解説
画像を見る

高額な治療費がかかる不妊治療。保険適用化は一見喜ばしく思えるが、実施にあたっての課題は山積みだ。見過ごせない懸念を、現場の専門医に聞いたーー。

 

不妊治療を選択する夫婦は、年々増加している。厚生労働省の統計によると、夫婦5.5組に1組が何かしらの不妊治療を経験。体外受精で生まれた子どもの数も増加しており、’18年には過去最多の5万6,979人となった(日本産科婦人科学会)。同年の総出生数は91万8,400人で、16人に1人が体外受精で生まれた計算になる。

 

そんななか、菅義偉首相は2年後をめどに、不妊治療を保険適用の対象にする方針を明言した。

 

不妊治療は保険適用の範囲が狭く、高額な治療費がかかる。妊娠までに何年も治療して、“家が建つ”ほどお金を使うケースも。保険適用化は子どもを望む多くの夫婦にとってうれしい改定だろう。

 

だが、年間5,000件以上の体外受精を行っている浅田レディースクリニックの浅田義正先生は、問題点をこう話す。

 

「保険診療によって患者さんの費用負担が軽くなるのは喜ばしく、私も大賛成です。しかし“体外受精は一律でこの点数(金額)”と決められたらどうなるでしょうか。体外受精にも施設ごとにいろいろな方法があり、結果もピンキリ。それを一律何点、とすることは、高級料亭でも屋台でも、食事は1回いくらと決めるようなものです。そうすると、飲食店はおいしいもの、良質なものを提供するのではなく、その料金に合わせた料理をつくるようになります。クリニックにおいても、1回の治療の売り上げが同じなら、治療数を多く、原価を安くすることが利益につながる。その結果として、手間や費用をかけない“手抜き治療”が横行し、妊娠率の低い治療を繰り返し行い、何度も通わせるクリニックが増える可能性は否めません」

 

保険適用によって、母体に危険な負担を強いることになるのだ。現在不妊治療に使われている薬剤が使えなくなってしまう可能性もあるそう。

 

「あまり知られていないのですが、治療に使える薬剤にも制限がかかるかもしれません。保険適用になれば、体外受精で使用する培養液や機材などの適応認可も必要となります。そのための治験には莫大な費用と時間が必要です。すると、現在使用されている薬剤の適応認可が下りない、遅れるということも考えられ、保険適用範囲で治療している期間は使いたい薬剤が使用できなくなる可能性も出てきます。その結果、今までどおりの治療が受けられなくなる場合も」

 

人材不足の問題も今以上に深刻になるという。

 

「培養室は不妊治療の根幹ですが、胚培養士を育てる公的な育成機関はほとんど機能しておらず、院内で育てる必要があります。クリニックの収入は治療費しかないので、その教育費用は患者さんからいただく治療費から捻出することになります。しかし、その育成費用などを考慮しない点数設定をされてしまうと、スキルのある人材を育てる資金がなくなり、クリニックのレベルが大きく下がりかねません」

 

保険診療では結果が出る治療が受けられないとなれば、結局、患者は自由診療での治療に頼らざるをえなくなる。だからといって、どのクリニックがよいのかなどの情報を得るのは、ますます難しくなるという。

 

「保険制度の原則は“日本全国どの施設でも、同一料金で、同一レベルの治療ができる”。そのため、どこの病院がよい、悪いという情報は逆に出てこなくなります。たとえば、現在保険適用されている病気の治療について、医療機関ごとの成績が開示されているでしょうか?」

 

国際生殖補助医療監視委員会が’16年に作成したレポートによると、日本における体外受精の実施数は世界1位。しかし、体外受精による出産率(1回の採卵あたり)は世界最低レベルだ。浅田先生はその理由を「効率の悪い体外受精が繰り返し行われているため」と説明する。

 

「体外受精で妊娠に至る受精卵を得るには、35歳まででも平均14〜15個の卵子が必要です。そのため、海外ではホルモン剤を使用して1度の採卵で多数の卵子をとる方法が一般的。しかし、日本ではホルモン剤を使用せず、1度の採卵で卵子を1〜2個だけとる自然周期採卵が多く行われています。採卵は月1度しかできないので、15個集めるには1年以上かけて、何回も採卵をする必要が。この治療法なら医師の知識や技術、経験が浅くてもできるため、不慣れな医師を雇っても多数の患者さんを受け入れられる。だから今も多く行われているのです。こうした経営効率を重視した治療が保険適用の基準となることで、結果につながらない体外受精が増えるのではないかという点も、危惧しています」

 

イギリスの国立医療技術評価機構(NICE)のガイドラインでは、《自然周期採卵はメリットがないので勧めてはいけない》と明記してある。

 

「結果につながる治療に対して公的資金を投入するべきではないでしょうか。混合診療も視野に、同一料金で同一レベルの医療が受けられ、さらに高度な最新治療は患者さんの選択によって自由診療で受けられるようになるなど、保険と自費の線引きがうまくできればよいのですが……」

 

不妊治療の保険適用、手放しでは喜べなさそうだ。

 

「女性自身」2020年11月3日号 掲載

関連カテゴリー: