「そうだっけ? スープの味、作ったの私かな?」と豪快に笑う、山口家の“ママさん”こと江口友子さん。すかさずご主人が「そうだよ(笑)」とツッコむ。鶏・豚に玉ねぎ、長ねぎ、にんにくなどでていねいに作ったスープのベース。しっかりと舌にコクと旨みは来るのに、全然しつこくない。年配の女性のお客さんたちが、おいしそうにすすっているのも納得だ。「けっこうあっちこっち食べには行ったよね。他の店で修行? 全然しない! でもだいたいねえ、ある程度までやってると…わかるよね」、こともなげにそう言うママさん。東京の初期“支那そば時代”のラーメンを食べ歩き、自分の味覚を頼りに、誰にも教わらずに作った味。そんなわけで山口家のタンメンは“どこか懐かしいのに、どこにもない味”なのかもしれない。 そして昔のまま変わらぬ味。何十年も守ってこれたのは、地元・千束通りの常連さんのおかげとご主人は言う。「お客さんの扱いは上手じゃないけど、接客は好きだね」(ご主人)「商売は好きよ。仕事が好き。お客さんと接するのが好きね」(ママさん)。そんな2人と話すのを楽しみに、何十年も毎日のように通う常連さん、1日に何度も来る常連さんがおおぜいいるという。甘味処ということもあって、ここは地元のみんなの憩いの場。山口“屋”ではなく、山口“家”(僕、うっかり、“屋”と間違えてました。ごめんなさい!)。話の内容も営業トークというよりは、ご近所さん同士の会話といった感じ。でもそれだけにお客さんもハッキリとものを言う。「言われますね、“味が変わったんじゃないか?”とか、もうすぐに」(ご主人) 二度と来ないかもしれない“一見さん”が次々と訪れる都市部の店と違って、我が家の味噌汁のようにその味を知り尽くした、ご近所さんが相手。ごまかしがきかない。