「一冨士」のラーメンの特徴である、懐かしさとイキのよさ。職人さんの手さばきもさることながら、やはり3代目の仁則さんの熱意によるところが大きい。妻の和実さんは言う。
「おばあちゃんが亡くなられた平成10年頃から、主人はバイトでお店の手伝いを始めたと記憶しています。その頃からすでにスープや麺の研究には熱心でしたね」
先代のラーメンと仁則さんのラーメンの大きな違いは、麺。業者の製品から、自家製の麺に変えた。
「昔の食堂ってラーメンもあれば、カレーもあるしカツ丼も出す。いろんな料理を出すところだったと思うんです。それは時代性で素晴らしいことだと思いますし、主人の味の基準もたぶん、小さい頃から食べていたおばあちゃんのラーメンだったと思うんですね。でも主人がよく言うのは、“これからは品数をしぼって、質で勝負する時代”だと」
伝統の味を変えることなく、よりおいしくすること。今食べておいしい、昔ながらの味。老舗を継ぐものなら誰もが抱くテーマに、仁則さんは今挑んでいるのだろう。
毎朝6時にはお店に来て、豚骨、鶏ガラ、かつおを中心としたスープの仕込みを始め、開店の11時半までには焦がしネギにチャーシュー、餃子の餡などの仕込みも全て済ませる。昼休憩を挟みながらも、夜11時までの長時間営業。和実さんとは入れ替わる形で、毎日のシフトを回している。これでは、なかなか自分たちの時間を持つこともできないだろう。
「先代のお父さんが亡くなられて、主人の代になってまだ2年。これからお店を数十年続けていくうえで、ここ数年は基礎作りの一番大事な時期だと思うんですね。一番集中というか没頭しないといけない時期だと思っています」