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料理に人生のすべてをかけてきた日本を代表するシェフたちが、人生の終わりに作りたい料理とは、誰のためのどんなメニューなのだろうか? そのときを想像しながら、巨匠が目の前で調理してくれた渾身の一皿。題して『マエストロたちの最後の晩餐』。明日、人生が終わるとしたら、あなたは最後に何を作りますか?

 

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■『広東名菜 赤坂璃宮』オーナーシェフ・譚彦彬さん

 

コック見習いのとき、初めて触れた中華食材がフカヒレだった。それは譚さんがまだ16歳のころ。臭みを取るため素材を掃除する毎日で、「こんなのどうやって食べるんだ?」と不思議に思っていたんだそう。

 

「下処理したものは数日後に料理となってお客様に出されます。厨房から眺めていて、いつか食べてみたいと憧れていてね」(譚さん・以下同)

 

その3年後に別の店で味を初体験することになるのだが、最初はあまりおいしいとは思わなかった。

 

「最高の食材に触れ、知り、食べ、自分も作るようになってから、いちばん好きな料理になっていきました」

 

青年時代の憧れはいずれ自身の代表メニューとなり、人生最後に作りたい1品に。それも自分のために。これは推測だけれど、もしかしたら駆け出しの自分に今の自分が作ってあげたいという思いがあるのでは? 若いころから「どうすればうまくなるか」と常に向き合い続けた食材なのだから。

 

作るのは王道の姿煮。最高級の特大フカヒレを鍋に投入し、グツグツと沸き立つスープにとろみをつけ、手際よく皿に流し入れる。プルッとした繊維の食感と、丸鶏と豚肉のだしに金華ハムなどでコクを加えた芳醇なスープが絡めば、もう息をのむ奥深さ。

 

「でもね、何度作っても、もっとうまくできるのではと思ってしまう。死ぬまで悩んでるかもしれないね(笑)」

 

実は携帯の待受け画面もフカヒレだと、こっそり教えてくれた。弾む笑顔が、まるで青年だったころのように見えた。

 

【広東名菜 赤坂璃宮】

日本の食材を使い、和の技法を取り入れるなど、旧来の既成概念にとらわれない広東料理を提供。メニューの豊富さ、盛り付けの美しさもあり都内でも屈指の人気店。

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