「現役医師として医療に従事する傍ら、民間伝承的な知識の真偽を検証していますが、医学の進歩・発展とともに、これまで常識と思われていた風邪に関する知識のなかには、実は医学的に間違っていたと考えられるものに多々遭遇します」
と語るのは、医学博士で医療ジャーナリストの森田豊さん。みんな思い込んでいるようだが、実は間違っている風邪対策を、森田先生に教えてもらった。
〈抗生物質〉を飲むと治りが早いと思う人は多いようだが「抗生物質が、風邪を引いている期間を短くする」という科学的論文は存在しない。日本呼吸器学会が成人気道感染症の指針の中で「風邪に抗生物質は無効。細菌性二次感染の予防目的の投与も必要ない」(’04年5月)としている。ほとんどの風邪の原因はウイルス。抗生物質は細菌に対しては効果があるが、ウイルスにはないという。
’90年代までは「風邪のひき始めには昔からの〈発汗療法〉が効果的」といわれたが、現代医療ではこれも間違った対処法だという。正しくは、体全体の温度を下げ(太い血管のある場所などを冷やす)、高い体温から生じる体力の消耗を避け、かつ発汗による脱水を予防することだ。発汗で体温を下げるよりも、むしろ脱水に注意が必要と指摘されている。
さらに、〈ビタミンC〉をたくさんとることで、風邪自体が治ることはない。この説が広まったのはアメリカのポーリング博士の『ビタミンCと風邪』という本がきっかけだった。その後のさまざまな研究で、ビタミンCをとると風邪の症状がよくなるという事実は、残念ながら確認できていない。ただ予防としては、少なからず効果があると報告されている。