スーパーなどで、レジの脇にココナツオイル商品が山積みになっていることに、お気づきの人も多いだろう。店によっては「売り切れました」の張り紙も。じつは最近、認知症に効果があることが話題になり、ココナツオイルがブームになっているのだ。
きっかけとなったのは、順天堂大学・加齢制御医学講座教授の白澤卓二先生が監修した『アルツハイマー病が劇的に改善した! 米国医師が見つけたココナツオイル驚異の効果』(SBクリエイティブ)という本。
「著者のメアリー・T・ニューポートさん(62)は、新生児治療を専門とする小児科医です。彼女の夫、スティーブさん(64)が、’00年ごろから若年型のアルツハイマー病を発症。投薬治療などさまざまなトライをしましたが、症状が進み、’08年には記憶障害だけでなく、視覚障害で本も読めなくなり、運動機能の低下から、まっすぐ歩くこともできなくなってしまったんです」
日々、病いが進行する夫を介護しながら、必死で治療法を探してきたメアリーさんはある日、アルツハイマー病治療薬として中鎖脂肪酸を研究している論文を目にした。中鎖脂肪酸がココナツオイルに多量に含まれると知ったメアリーさんは「ダメでもともと」と、近くの自然食品店でココナツオイルを購入。オートミールに加えて夫に飲ませてみた。
すると、前日の認知機能検査で14だったスコア(30点満点)が、突然18に向上。この効果に驚いた彼女は、毎日、大さじ2杯半のオイルを朝昼晩、夫に与え続けた。
「先日、来日したメアリーさんに会いました。無表情だった夫の顔が明るくなり、軽い記憶障害はまだあるものの、読書ができるまでに改善し、歩行だけでなく、走ることもできるようになった、と笑顔で話してくれました」
どうしてこんな奇跡が起きたのか?そのメカニズムを白澤先生は次のように解説する。
「アルツハイマー病は最近では『3型糖尿病』ともいわれ、患者の脳内で、インスリンの効きが極端に悪くなっていることがわかってきました。そのせいで、エネルギー源であるグルコース(ブドウ糖)を神経細胞が使えなくなり、記憶障害などを引き起こすと考えられています。ココナツオイルに含まれる中鎖脂肪酸は肝臓で分解され、ケトン体に変化します。ケトン体はインスリンの影響を受けず、別ルートで脳に届くため、グルコースの代用エネルギーとなって神経細胞の活動に使われ、再び脳が働きだすのです」
アルツハイマー病というと、高齢者を想像しがちだが、実際には脳の神経細胞の変性は50歳ごろから始まるという。
「ラットに中鎖脂肪酸を与えると、認知機能がアップすることが実験でわかっています。ココナツオイルを毎日、一定量取ることで、認知機能を維持できるはず」