高タンパク低カロリーのヘルシー食材として知られる鶏むね肉の卸値がじわじわと上がり続けている。独立行政法人農畜産振興機構のHPから資料をたどると、’16年5月のむね肉の東京での卸価格は1キロあたり255円だった。ところが今年5月には340円程度の高値が続いている。この1年間で実に3割以上も値上がりしているのだ。
「大きな原因は2つあります。まず輸入量が大幅に減っていることです。今年3月にはブラジルの食肉加工業者21社が、衛生基準に満たない食肉や加工品を販売していたことが明るみに出ました。この影響で国内産鶏肉の需要が高まったことも関係しているでしょう。もうひとつは、健康志向から鶏むね肉の人気がますます高まっていること。近年、疲労回復の効果が注目されているのです」(食品ジャーナリスト)
その疲労回復のカギを握るのが鶏むね肉に含まれる「イミダペプチド」という物質だ。東京疲労・睡眠クリニックの梶本終身院長が説明する。
「疲労の原因は、人が活動することによって生まれる活性酸素が、細胞を酸化させ傷つけることにあります。脳の自律神経の細胞が傷ついて機能が低下すると、疲れを感じることが多いのです。疲労を防ぐためには活性酸素から体を守る抗酸化物質を摂取する必要があります。抗酸化物質としてはぶどうの色素に含まれるポリフェノールが有名で、強い抗酸化作用があるのですが、摂取して2時間後には体内に10%も残っていないのです。一方、イミダペプチドは、人の体内でも持続的に合成され続けます。体内で生まれ続ける活性酸素に対して、持続して作用することができるのです」(梶本院長)
イミダペプチドは渡り鳥がなぜ長期間羽ばたき続けられるのかという研究の中で発見された物質だ。鶏むね肉100グラムには、1日に必要なイミダペプチド200ミリグラムが含まれているのだという。
「激しい運動による疲労だけでなく、日常的な疲労にも効果が期待できるので、取り続けることが大事です。翌日に疲れが残らなくなったなど、効果が実感できるのは1週間後くらいからでしょうか。またイミダペプチドは動脈硬化を防ぐ効果があるのではという研究が東大などのグループで進められています。動脈硬化で血流が悪くなるのを防ぐことで記憶力を改善する効果があるとされており、アルツハイマー病などの認知症への効果も期待されています」(梶本院長)
ダイエットに疲労回復、記憶力改善まで期待できる“黄金食材”とも呼ぶべき鶏むね肉。多少、家計に響いたとしても、ぜひ生活に取り入れたい食材といえそう。