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国内最年長である117歳のおばあちゃん、田島ナビさんがこのほど、ギネス記録の“世界最高齢”に認定される見通しとなった。これまで認定されていたジャマイカの女性が9月15日に死去したことによるものだ。

 

ナビさんは、1900年(明治33年)8月、鹿児島県奄美群島の喜界島で誕生した。2歳年上のご主人と結婚後は、農業に従事し、さとうきびやごまを栽培。7男2女を育てあげ、子、孫、ひ孫、玄孫、来孫と子孫が160人にものぼる。

 

92歳でご主人が他界。’02年から、同島の特別養護老人ホーム「喜界園」で暮らしている。同園によると、ふだんは寝ていることも多いが、食欲も旺盛! 1日3回、お粥やみそ汁などをミキサーにかけたものを欠かさず食べるという。

 

孫の廣行さんいわく、「若いころから元気で、大病を患ったこともほとんどなく、ホームに入る前は、“奄美に伝わる発酵飲料”が好きで、よく飲んでいた」のだそう。乳酸菌が健康長寿にいいと注目されるなか、このナビさんが好んで飲んでいた奄美の発酵飲料とは何なのだろう。

 

「それは“ミキ”のことですよ。古くから奄美に伝わるソウルフードで、島の人なら誰でも知っています。米とさつまいもと砂糖でつくられる、高温多湿の気候風土で生まれた、奄美、沖縄の伝統発酵食なんです」

 

そう教えてくれたのは、奄美大島在住の島料理研究家で、『心を伝える 奄美の伝統料理』(南方新社)の著者でもある泉和子さん。ミキは古くから、豊年祭や季節ごとの行事や神事のときにお供えして、神と人をつなぐ大切な役割を果たしてきたという。

 

「奄美大島の諸鈍集落にある大屯神社で、9月9日にお祭りがあります。そこでは仮面の舞『諸屯シバヤ』(国の無形民俗文化財)が奉納され、『三日ミシャク』といって、3日前からつくり発酵させたミキを奉納するのです。今はカタカナのミキですが、昔は神酒と書いていました。お神酒のことですね。昨年の大ヒット映画『君の名は。』にも、巫女が口に含み噛んでつくる『口噛酒』が出てきましたよね。かつてはまさに乙女たちが口で噛んで神酒をつくっていたんです」(泉さん)

 

神聖なご神事に奉納されていたミキだが、やがて、つくり方も簡略化され、庶民にも飲まれるようになっていったという。味は甘酒のようで、栄養価も高く乳酸菌も豊富なミキ。

 

「体力を消耗したときの滋養強壮などに効き、消化もいいので栄養がエネルギーに変わりやすい。病気になったとき、お粥の代わりに飲んだりして、島の暮らしには欠かすことができません。先日亡くなった私の姉も、もともとミキは好きではありませんでしたが、喉も通りやすいので、病床に『ミキ、持ってきて』と、最期まで飲んでいました」(泉さん)

 

昔は、それぞれの家庭でミキを手づくりしていたので、“世界最高齢”になるナビさんもきっと、子どものころから飲む習慣があったのだろう。

 

「うちでも母がよく一升瓶につくっていました。米と芋だけでつくり、その自然な甘味だけでしたので、子どものころは発酵した酸っぱさが苦手で……。でも最近は、甘くおいしく飲みやすくなったミキが、地元のスーパーで販売されています。酸っぱいのを好む年配の人は、『今売ってるのは(酸味が)物足りんね』と言っていますが(笑)」(泉さん)

 

かつて徳之島で120歳まで生きたとされる泉重千代さんが暮らしていたこともあり、長寿の地として名高い奄美群島。

 

「気候や風土を生かし、さつまいもの食文化の知恵から誕生した、栄養満点のミキ。ぜひ全国の人に、健康に役立てていただきたいです」(泉さん)

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