「今回の検査結果では、乳がんのリスク値がやや高めでした。これをもって即、がんがあると判断するわけではありませんが、精密検査で確定診断を受けることをお勧めします。専門科のある医療機関へ紹介状を書きますよ」
記者が受けた検査結果をもとに、丁寧に解説してくれるのは大泉中央クリニック院長の砂村眞琴氏。
2週間前、記者が受けたのは「サリバチャッカー」という検査だ。砂村氏が開発した、わずか0.2~0.4ミリリットルの唾液でがんのリスクを判定するというもの。検査室の長机には梅干しの入った瓶が置かれている。
「自然の唾液が必要なので、香りだけ嗅いで、唾液が上がってくるのを待ちましょう」と看護師さん。酸っぱい香りに誘われ、ある程度唾液が口にたまったら、太めのストローでつるっと垂らす――。唾液を収めた容器を看護師さんに手渡し、検査終了。採取した唾液はフリーザーで冷凍され、クール便で衛生検査センターに送られ解析される。
体への負担もゼロというこの検査は、慶應義塾大学先端生命科学研究所と東京医科大学発の医療ベンチャー「サリバテック社」が開発。同社のCEOであり、東北大学で長く消化器外科手術に従事した砂村氏が、’10年から「体に負担の少ない検査法を開発したい」と、ヒトの体から出る「代謝物質」である唾液に着目。治験を経て、’17年に実用化となった。
検査の鍵となるのは、がん患者から出る、「ポリアミン類」という特異的な物質でスペルミン、スペルミジンなどだ。それら8種類の物質の濃度から最新AI(人工知能)がリスク解説するのがこの検査の特徴である。
「自覚症状の出にくい膵がんも、早期の段階で発見できる可能性があります」(砂村氏)
結果は、膵臓・大腸・乳腺・肺・口腔の5つのがんそれぞれについて、0~1までのリスク値を算出。ABCDでリスクを示し、CDと判定されれば専門科で精密検査を受けるよう勧められる。
さて、記者の検査結果では、大腸がんはB、肺がんはAと判定されたが、乳がんはCであったことから、冒頭のように、砂村先生から「何年も検査を受けていないのなら、これをきっかけに受けたほうが」とアドバイスをいただいた。
現在全国20カ所の医療機関で検査でき、費用は2万~4万円(税抜き)程度であるが、今後、検査を受けられる医療機関が広がり、多くの人に利用してもらうことで、1万円以下に価格を下げていきたいという。
「身体的な負担や、面倒くさいということで、長年検診から足が遠のいている方に活用してほしい。簡易検査にありがちな検査しっぱなしを避けるため、この検査後のフォローをする医療機関も増やしています」(砂村氏)