「今の時代、実に多くの人が睡眠の問題で悩んでいます。うつ病の患者さんもそうですし、女性は更年期になるとエストロゲンの量が急激に減り、自律神経のバランスが乱れ、そこからうつ状態になって、睡眠に支障をきたす人もいます。高齢の方は深く眠れずに、何度も目が覚めたり、朝早く目が覚めてしまうという方が多いです。エイジングの影響もありますが、眠れないということは交感神経の緊張状態が長時間にわたって続いているということです。深い呼吸は緊張状態を和らげてくれます」
こう話すのは、心療内科医の板村論子さんだ。板村さんは、誰でも簡単に、しかも1分程度でできる「4-7-8呼吸法」を提唱している。やり方は次のとおり。始める前に口を軽く閉じて、鼻から息を吐き切る。
1)口を閉じて鼻から息を吸う。頭の中で1から4まで数え、胸いっぱいに酸素を取り込むように深く静かに息を吸う。
2)吸った息を肺の中で保持しながら、頭の中で1から7まで数える。このとき、息を止めるのではなく、酸素が全身に行き渡るイメージを持つ。
3)頭の中で1から8まで数えながら、口からゆっくりフーっと息を吐く。鼻から吐いてもOK。
なんと、この呼吸法は、安倍晋三総理も行っている健康法なのだとか。
この呼吸法を生み出したハーバード大学出身のアメリカ人医師アンドルー・ワイル氏が数年前に来日した際に、総理がワイル氏から直々にこの呼吸法を教わったのだそう。安倍総理は過去に難病の潰瘍性大腸炎を患った経験もあり、ふだんから健康には気を使っているという。自民党の懇親会で「『4-7-8呼吸』を始めてから心身ともに落ち着いてきた」と首相自ら紹介したというくらいだから、よほど効果があったのだろう。
「『4-7-8』とは、4カウントかけて息を吸って、7カウントの間吸った息を止めて、8カウントかけてゆっくりと息を吐く呼吸法です。この数字は『秒』ではなく『カウント』ですので、自分のやりやすい速さでカウントしてください。ただ、吸うのが『1』に対して吐くのが『2』の比率は変わりません」(板村さん・以下同)
ポイントは、吸うことより、吐くことを意識することだ。息を吐ききると自然に息を吸えるようになる。まずはおへそ少し下(丹田)を意識して息を細く長く吐くことからやってみよう。
吐く息で肺の空気を出し切り、新鮮な空気を吸うことで、体内にたくさんの酸素が巡る。酸素が体内を巡ると、細胞も若返り、ストレスも軽減される。
1対2の呼吸に慣れてきたら、息を止めるようにしてみよう。
「7カウント息を止めるのが難しい方は、自分のペースで止めてください」
息を止めているときは、新鮮な空気が全身を巡って細胞一つひとつに酸素を送り込んでいるようなイメージをするとよいそうだ。
板村さんは、2014年から2年間、アリゾナ大学での統合医療フェローシップ・プログラムで、ワイル氏からじかにこの呼吸法を学んだ。その後、心療内科の外来でこの呼吸法を実際に取り入れている。
「現代人はストレスの多い生活を送っているため、過緊張状態が長く、呼吸が浅くなっています。そのため、体内が慢性的な酸素不足になっており、うつ病などの精神疾患や、糖尿病やがんといったさまざまな病気につながる慢性炎症の状態が続いているのです」
眠れないのは交感神経の緊張が続いているということ。深~い呼吸によって、緊張を和らげ、自然に眠りに入れるという「4-7-8呼吸法」。習慣して、よい睡眠と健康を維持しよう。