「口の周りや歯、歯茎に激しい痛みを感じることはありませんか? 市販の鎮痛剤を飲んでもおさまらず、原因不明のまま“抜歯してしまおうかな”と考えている人は、ちょっと待ってください! 原因は歯ではなく、『三叉神経』にあるかもしれません」
そう語るのは、これまで40万人の体の不調を診てきた、くどうちあき脳神経外科クリニック院長の工藤千秋先生だ。
「三叉神経は、脳の真ん中の脳幹から出ている大きな神経で、熱さや冷たさなど、顔で感じた感覚を脳に伝える役割を果たしています。三叉神経に異常が起こり、顔の一部を突発的な激痛が襲うのが『三叉神経痛』です。座骨神経痛のような『神経障害性疼痛』の一種で、原因としては神経の老化があげられます」
痛みを起こす原因のもうひとつは、“血管の硬化”ではないかと工藤先生は指摘する。
「加齢とともに、血管は硬くなり、大きく曲がってうねりはじめます。動脈がドクンドクンと脈打つたびに三叉神経に触れることにより、ハンマーでたたかれたような激しい痛みを引き起こすのです」
3つの枝が行きとどく目の奥、鼻の横、上下のあごや歯など、三叉神経痛によって痛む場所は、人によってさまざま。
「顔に触れる、口を動かす、食事をするなど、わずかな刺激が、痛みの引き金となることもあります。歯茎が痛くて歯科医をたずねたところ、『虫歯……ですかね』とあいまいな感じで言われた。あるいは、鼻の横に激痛を感じ耳鼻咽喉科に行っても、『副鼻腔炎ではなさそう』との診断だった。そんな“原因不明”の顔の痛みに悩んでいる人は、三叉神経痛を発症している可能性が高いのです」
虫歯や親知らずが原因と診断され、抜歯したにもかかわらず、痛みがとれない人も多いと工藤先生。
「10年前に日本神経治療学会が発表した年間発症率は10万人に4人。しかし、私が診察に当たる中で、三叉神経痛にあてはまる50代の女性は確実に増えています。とくに11月からの寒い時期は、体温を逃がさないように血管が収縮し、血圧が上がるため、よけいに神経が圧迫され、痛みがひどくなる人も増えるのです」
なぜ、三叉神経を圧迫してしまうほどに血管がうねってしまうのか。この状態を工藤先生は“血管内中年太り”と呼んでいる。
「これは、中に悪玉コレステロール(LDL)が増加し、血管の内側の壁に“ゴミ”となって張りつき、硬化してしまっている血管の状態をいいます。とくに閉経後の女性は、女性ホルモンが減少することで代謝も低下し、血液中の中性脂肪も増加しやすいので、“血管内中年太り”になりやすいんです」
「きっと虫歯だ!」と自己診断はせず、次のチェックリストと照らし合わせたうえで、医師の診断をあおぐようにしよう。
【痛みはこんなときに走る】
□顔を洗ったあと
□歯を磨いたあと
□かたい食べ物をかじったとき
□熱いもの・冷たいものをたべたとき
□辛いものなどの刺激物を食べたとき
□お酒を飲んだとき
□しゃべっているとき
「三叉神経痛をいちど発症してしまうと、手術なしで痛みをゼロにするのは難しい。でも、アロマの香りをかいだり、食事前に深呼吸してリラックスするなどして、自律神経を整えることでも、痛みを抑えていくことができます。突然顔に激しい痛みを感じ、原因がわからなかったら、脳神経外科をたずねてみてくださいね」