寒い家で暮らす人は脳が老けているという驚きの事実。さらに、室温が低いと、高血圧や要介護状態にもなりやすいという。寒い家のリスクを知り、家の防寒対策を整えようーー。
「暖房で電気代がかさむ冬。節約のために家でも寒さを我慢していませんか。それはすぐにやめたほうがいい。最新の研究で、寒い家に暮らす人ほど脳は“老けやすい”ことがわかったからです」
こう話すのは、慶應義塾大学理工学部で住環境と健康の関係について研究する伊香賀俊治教授。頭寒足熱ということわざがあるように、健康には少しの寒さが必要なイメージもあるが、実際は、脳に悪影響しかないという。伊香賀先生が詳しく解説する。
「高知県檮原町と山口県長門市に住む40〜80代の150の脳をMRIで詳細に撮影し、画像をもとに、脳の健康状態を点数化。住んでいる家の居間の室温と点数の相関関係を調査しました。すると、居間の温度が低い家で暮らす人ほど点数が低いことがわかったのです。一般的に、高齢な人ほど脳の健康状態は悪く、点数は低くなります。つまり、寒い部屋に暮らす人は、脳の状態が高齢の人に近く、脳が老けているということになります。それも、室温が1度低いときに減る点数は、年齢が1つ上がるときに減る点数の約2倍。言い換えれば、室温がほかの人よりも1度低い家で暮らす人は、脳が2歳分も老けているんです」
居間が冷えているだけで、脳が老けていくという衝撃の事実。でも、なぜ部屋が寒いと脳は老化してしまうのか。
「寒い場所にいると、私たちの体は体温の低下を防ぐために血管を収縮させますが、同時に血圧も上昇します。血圧が高くなりすぎると、血管は傷つき、小さな血栓ができたり、細い血管が破れたりするため、脳はダメージを受けると考えられます」
ダメージが蓄積すると、脳は徐々に情報伝達がうまくできなくなる。運動や記憶などをつかさどる脳の機能は低下し、老化が進んでいくというのだ。脳が老いれば、認知症にもなりやすくなる。
「加齢によって脳の機能は悪くなりますが、寒い部屋はそのスピードを加速させる。認知症のリスクをより高めることになります」
また、認知症予防には運動が重要だが、寒い住宅に暮らす人は動くのがおっくうになり、体を動かす時間が減少する。
「断熱改修する前と後で、1日の屋内での活動時間を計測したことがありますが、リフォーム前は約30分も活動時間が短かった。厚生労働省は、65歳以上の人で1日40分の運動をする人は、まったく運動をしない人と比べ、認知症などの発症リスクが21%低くなるとしています。寒い家は高齢者をより認知症の危険にさらすのです」
これらを裏付けるかのように、寒い家で生活する人は要介護認定を受けるのが早いという実験結果もあるという。
「脱衣所の室温が約15度と13度の家にそれぞれ住む人たちが、何歳で要介護認定を受けたかを大阪府で追跡調査しました。たった2度の違いと思うかもしれませんが、脱衣所の室温が低い家で暮らす人たちのほうが、要介護認定を受けやすく、健康寿命も4年短くなったのです」
暖冬といわれる今年の冬でも、脳がヨボヨボにならないよう、わが家の防寒はしっかりしよう!
「女性自身」2020年1月21日号 掲載