画像を見る

「最近、ひざ痛の患者さんが急増しています。長引く巣ごもりによる運動不足に、コロナ太りも重なったことで、ひざに負担がかかっているのです。ひざ痛の9割以上は変形性ひざ関節症で、病院では『安静にするように』と医師から言われるかもしれませんが、いつまでも動かさないとひざ関節を支える骨や軟骨、筋肉や靭帯が衰え、ひざ痛が慢性化してしまいます。私は、『安静に』と言ったことはなく、『痛くない範囲でひざをできるだけ動かしてください』とアドバイスしています」

 

そう語るのは、江東病院理事長で順天堂大学医学部整形外科特任教授の黒澤尚先生。黒澤先生は、1回1分程度、自宅で簡単にできる「運動療法」を’80年代から提唱。世界的に効果も実証され、臨床現場でも治療に取り入れられている。

 

毎日体操を続けることで、一時的な痛みを抑えるだけでなく、長い期間、効果が持続するという。

 

「私が患者さんを診る際は、痛くない範囲で足を動かす運動療法を日常的に行ってもらうと同時に、ひざに負担のかからないウオーキングの習慣化を勧めています。さらには、太っている人には過食や間食などをやめて体重を減らすようにアドバイスもしています。鎮痛剤は痛みが強いときのみ処方するようにしています」

 

黒澤先生が考案した運動療法「黒澤式ひざ体操」は、主に太ももを無理なく鍛える「足上げ体操」「横上げ体操」「ボール体操」の3つで、いずれも1分ほどの時間があれば可能だ。

 

「無理のない程度であっても、ひざを動かすと、それまで炎症を起こしていた部分にさまざまな作用が働きます。まずは、炎症の原因となる炎症性サイトカインが抑えられ、炎症を鎮める抗炎症性サイトカインが分泌されます。さらに、ひざ関節の軟骨成分であり、ひざ関節の組織の修復に必要なコラーゲンやプロテオグリカンが作り出されて、ひざの痛みが軽減されてきます。また、この体操は腫れや熱が治まるまで待たなくても、痛みなく行うことができるのも特徴です。ただし、あまり重い負荷をかけて行ったりすると、かえって症状が悪化して痛みが強まってしまうので注意が必要。痛みや症状の出方は人によって異なりますので、必ず事前に医師に確認してから行ってください」

 

■足上げ体操

 

ひざを支える筋肉の中で最も重要なのが、太ももの前面にある大腿四頭筋。ここを鍛えることで、ひざが安定して、動作の際にかかるひざへの衝撃を和らげてくれる。

 

【1】あおむけに寝て、右脚のひざをまっすぐ伸ばしたまま右足を床から10センチのところまでゆっくり上げ、5秒間停止する(反対側のひざは深く曲げておく)。
【2】右脚をゆっくりと下ろし、床についたら1〜2秒休む。これを10回繰り返す。
【3】左右の脚を替えて、同様に10回繰り返す(慣れてきたら回数を20回に増やす)。

 

「私が40年以上も前に考案した『足上げ体操』を毎日続ければ、無理なく大腿四頭筋を鍛えることができ、ひざの痛みが徐々に緩和されてきます。まず、床や畳の上にあおむけになり、左脚のひざを立てて、右脚のひざを伸ばしたまま、足を10センチゆっくり上げて、下ろすのを10回。左脚も同様に行います。左右行ってもほぼ『1分』。これを1日1〜3セットを目安に行いましょう」

 

■横上げ体操

 

続いては、体を横向きにして「横上げ体操」にトライ! 横向きに寝て、ひざを伸ばしたまま脚をゆっくり上げ、ゆっくり下ろす。これを左右10回ずつ繰り返すと、大腿四頭筋とともに腰の横にある中殿筋が強化される。

 

【1】右腕側を下にして横向きに寝る。左腕は楽な位置に置き、右脚のひざは直角に曲げておく。
【2】ひざを伸ばしたまま、左脚を床から10センチのところまでゆっくり上げ、5秒間停止。その後、5秒かけて脚をゆっくりと床まで下ろす。
【3】1〜2秒休んでから【2】を繰り返す。
【4】左右の脚を替えて、同様に10回繰り返す(慣れてきたら回数を20回に増やす)。

 

■ボール体操

 

「ボール体操」は、脚を投げ出して座り、太ももの間にボールを挟んで力を入れる運動で、内側広筋と大腿内転筋が鍛えられる。ひざは少し立てて、曲げながら行うのがコツという。

 

【1】脚をボールの幅に開き、ボールをももの間に挟む(ひざは少し曲げる)。
【2】ボールの重心を押しつぶすように、ももで5秒間力を加える。ポイントは左右のももでゆっくりと力をかけること!

 

毎日、少しずつ行うことでひざの腫れや熱が治まり、痛みも和らいでいくというから、たった「1分」の積み重ねもあなどれないということか。

 

「どんなにひざが痛くても、全く痛みを感じないでできます。最低でも朝晩で2回、できれば毎日3回は行いましょう。慣れてきたら回数を増やしたり、脚に重りをつけたりしてもかまいません。ひざに熱や腫れがある場合は、体操の後、30〜60分程度アイシングをしてください。夜、お風呂に入る場合は、体操→お風呂→アイシングの順番でやってください」

【関連画像】

関連カテゴリー:
関連タグ: