「少々の体調不良では休めない」
勤勉な私たちは、微熱や軽いなどをこらえながら働いてきた。だが、新型コロナウイルスの感染拡大が起き、意識が変わった。「体調が悪いときは休むべきだ」と。
ただ風潮がどんなに変わっても、「風邪で休める。ラッキー!」と楽観的に思えないのが、まじめ人間の性か。今度は、「体調を崩すと休まないといけないから、体調を崩せない」などと強迫観念を抱く人もいる。
「私も絶対に休めません」
そう話すのは都内のクリニックで毎日約70人の患者を診る大谷義夫先生だ。今は発熱外来などで新型コロナ対応の最前線に立つ。
日々感染症のリスクにさらされている大谷先生だが「医師になって30年以上、病気はほとんどしたことがない」と言う。
「絶対に休めないからこそ、休まないためにどうすればいいかを追求し、『科学的に正しい』と思える体調管理をひたすら実行しています」(大谷先生・以下同)
絶対に休めない大谷先生の体調管理法を、先生の24時間に沿って教えてもらおう。
まず、起床は朝7時だ。
「体調管理には、睡眠が重要です。私は最低でも6時間、手術着を着て寝ています」
手術着は意外にも、さらさらと着心地がよく、体に負担がかからない。首に負担がかかるパーカや、寝返りが打ちづらい分厚い素材のものは避けたほうがよい。
■診察で忙しい時間も工夫しながら運動
起きたらすぐに水を1杯。
「寝起きの体は水不足で血液もドロドロです。モーニング・ウオーターは脳卒中や心筋梗塞のリスクを減らし、のどの線毛運動を活発にして感染症対策にも効果的です」
朝は高血圧にも注意が必要だ。
「右手でタオルをぎゅっと2分間握り1分休憩。次は左手でと2回繰り返します。血管を広げる一酸化窒素が発生し血圧が下がります」
洗面所では、舌を出したり引っ込めたり、左右に動かしたり「舌出し体操」でのどを鍛える。
「のどの飲み込む力が衰えると誤嚥性肺炎のリスクが高まります。誤嚥性肺炎は日本人の死因第7位、侮れません。ただのどは筋肉ですから、鍛えれば何歳からでも強くなります。とはいえ、できれば50代から始めてほしいです」
9時に診察が始まると、体調管理どころではなさそうだが……。
「私は患者さんを迎えるときと見送るときに立ち上がります。1日の患者数が70人なら“立ったり座ったりスクワット”が140回。これで座りっぱなしが防げます」
1日6時間以上座っている人は、3時間未満の人と比べて早期死亡のリスクが19%高まるというデータもあり、長時間の座りすぎは喫煙と同じくらい体に悪いという。
あわただしい診療の合間の食事は手軽なサンドイッチなどが多い。
「朝も昼も、タンパク質を意識しています。高齢になるほど、筋肉も骨も衰えますから、三食ともタンパク質を取りたいですね。食後15分ほどの昼寝で、頭をスッキリさせます。平均血圧を下げ、心臓病や脳卒中のリスク低減にも効果的です」
大谷先生の食事の一例が次のとおり。
【朝】ヨーグルトにりんご半分とバナナ、えごま油大さじ1、はちみつ少しを混ぜたもの。
【昼】ランチは高タンパク・低脂肪のチキンサンドイッチ。
【18時】ココアで血圧を下げる。
【夕】加熱したトマト。タンパク質を意識的に取る。
体調管理には運動習慣も大切だ。
「昼寝後、10分程度散歩します。激しい運動は免疫力を下げますが、軽い運動は免疫力を上げる効果があります。中高年はジョギングよりウオーキングがおすすめです」
感染予防にしていることは?
「病原体をもらわないためになるべく指先を使わず、顔を触らないことです。帰宅後は玄関前でアルコール消毒をしますし、歯磨きは1日4~5回。私はスキンヘッドなので、手洗いと一緒に顔や頭もざぶざぶ洗います」
体調管理に大切なことは?
「まずは、打てるワクチンはすべて打つこと。これで病気にかかるリスクがかなり低減されます。そのうえで睡眠と食事、運動習慣ですが、なかでも睡眠が大切です」
よい睡眠のためにすることは?
「スリープ・セレモニーともいいますが、『いまから寝る』モードに切り替える『入眠儀式』を大切にしています。寝る1~2時間前に入浴し、手術着に着替え、寝る30分前からはスマホもパソコンもテレビも見ないで、本を読んでゆったりしていると、眠りやすくなるのです」
オミクロン株が猛威を振るうが、絶対に休めない医師の24時間を参考に、体調管理に努めよう。
【PROFILE】
大谷義夫先生
池袋大谷クリニック院長、呼吸器内科医。著書に『絶対に休めない医師がやっている最強の体調管理 コロナ対応版』(日経ビジネス人文庫)など多数