■治療中のウイッグ代など女性ならではの出費も
一方で、乳がん経験者であるFPの黒田尚子さんは、がん保険に加入していなかったことを後悔した。
「“自分はならないだろう”と思っていたんですね。でも、いろいろ調べてみると、がんは生活習慣によるところも大きいようです。お酒が好きで、がんのリスクが高い生活を送っていたのだから、入っておけばよかったと思ったんですね」
黒田さんの乳がんが発覚したのは、’09年の夏、40歳のときに、自治体の乳がん検診を初めて受けたことがきっかけだった。
「担当医に5年生存率50%と言われて“死んじゃうのかも”と。まだ子どもが5歳だったから、小学校に入学するまで生きていられるのか、その後、夫一人で子どもをどう育てるのか、心配でした」
病気や治療、将来の不安の後にくるのが、お金の心配だ。
「がんになって10年以上たちますが、合計366万円ほどです。その大半が、1年目の治療費。まず、大きな出費は、全額自己負担となる乳房再建手術費用で、163万円ほどかかりました。次に差額ベッド代。1泊3万円ほどの部屋に17日ほど入院したので50万円以上かかりました。ただし保険診療となる医療費に関しては、高額療養費制度が利用できるので、それほどかかったわけではありません。一般的にがんの治療費は50万円から100万円が目安です。その準備があれば、がん保険に入らないのも選択肢の一つです」
黒田さんも、夫が仕事をしていたし、貯金があったから乳房再建手術なども受けられた。
「どこまでお金をかけるかで、事情は変わってきます。私の場合は、再建手術をしたので、もしがん保険に入っていれば、だいぶ助かったでしょう。治療費以外にも支出はあります。私の相談者からは、肥満が再発リスクになると医師から指導されてジムに通った、サプリや有機野菜で費用がかかったという声が聞こえます。抗がん剤治療の副作用による脱毛でウイッグも必要なケースも多いはず。がん保険の診断一時金の用途は自由で、こうした医療費以外のことにも使えるメリットがあります」
抗がん剤治療が続き、働けなくなる可能性もある。
「年間100万円ほどのパート代を子どもの教育費に充てていた相談者は『がん保険に入っていればよかった』と語っていました。子どもの教育費のめどがつくまで加入するという考え方もあります」
【黒田さんの治療費】
・乳房再建手術(自己負担)→約163万円
・個室の差額ベッド代(1泊約3万円×17泊)→約50万円以上
・その他がん治療費→約150万円
計:約366万円
治療だけで十分か、治療中の外見などにも気を配りたいか、子どもの教育費がかかるかなどで、がん保険の必要性は変わりそうだ。
「がんの治療だけなら、当面必要な100万円ほどの貯金があって、差額ベッド代も最小限、保険が適用されない先端医療まで望まないというのであれば、あえてがん保険に入る必要性は感じません。むしろ、がんは早期に見つければ、社会復帰も早く、医療費も安く済むので、がん保険のお金を、定期的ながん検診、予防のために使うほうが、合理的ではないでしょうか」(山崎さん)
2人の貴重な体験から、がん保険の見直しをしてみよう。