「女性は全年代で鉄分が不足しがちですが、特に更年期世代の女性は疲れやすく、気分の波も生じやすくなっています。更年期だと思っていたら、実は鉄不足が一因ということもあるのです」
こう話すのは調理師でフードコーディネーターの毛利有香さん。毛利さん自身、幼少期から鉄欠乏性貧血のため、さまざまな体調不良に悩まされていたのだそう。
「小学校のときから同級生に比べて、集中力に欠けていたり、すぐに体が疲れたりして、生きづらさを感じていました。今考えると、鉄不足が原因だったのでしょう」(毛利さん、以下同)
毛利さんは出産後、仕事と家庭の両立に忙しい生活を送っているうちに、うつ病とパニック障害を患うようになってしまう。
「病院に通って、投薬治療をしてもなかなか改善せず、最終的にかなり強いお薬を処方されるようになりました。このままではいけないと悩んでいたとき、鉄不足がメンタルに影響することに注目し、本格的に食事を見直すことにしたのです」
意識的に食事から鉄分をとることを心がけたところ、変化はすぐに表れた。パニック障害とうつ病がみるみる改善されて、薬もいらないほどに回復したのだそう。
そこで毛利さんは自身の体験から、鉄分豊富なメニューをSNSなどで紹介していくようになった。
鉄分の含まれる食材は、肉類・魚介類・卵・野菜・豆類・果物などと実に幅広い。ところが日本人の鉄分摂取量は少ないのだという。
「日本人女性が一日で推奨されている鉄分の摂取量は11mgなのですが、実際にとれているのは6mg程度といわれています。推奨の半分程度しかとれていないのです」
鉄不足の原因は、月経などの出血、食事量が少ない、消化管のトラブルなどさまざまだ。
「加えて、ここ十数年で食品自体の鉄含有量が下がっていることも鉄不足の一因といわれています。『日本食品標準成分表』(文部科学省)の2010年版と2023年版を比較すると、鶏卵や大豆などで鉄の含有量が減ったものがあります。また、鉄の器具(包丁、鍋)を使用しなくなったことで、切り干し大根やひじきなどの加工食品の鉄の含有量が減ったと考えられています。ですが、鉄分を含む食材を知って、それを増やしたり、“ちょい足し”することで、11mgに達するようになります」
まずは毎食しっかりと食べることが大切だと毛利さんは強調する。
「特に更年期になると痩せにくくなるので、食べる量を減らそうとしたり、麺類など、簡単な内容の食事になりがちです」
麺類などのやわらかい食事に偏ると、咀嚼力が弱まり、タンパク質不足から筋肉低下を招き、鉄不足にもつながりかねない。そして、睡眠の質が落ちたり、メンタル不調に陥ったり、肌が荒れたりと負のスパイラルに入ってしまう。かといってサプリに頼りすぎると、胃腸が荒れたり、便秘になることも。
「ですから、ご飯、主菜、副菜、みそ汁といった和定食のような食事をきちんととることが大事です。お米には、亜鉛やタンパク質も含まれています。咀嚼力もつきます。
ご飯を食べるときに、ふりかけや梅干しと一緒に食べることで、より鉄分が吸収できます」 クエン酸やビタミンCが多く含まれる食品を最初に食べると鉄分の吸収率が上がるのだそう。