■すい臓がんは公的がん検診の“対象外”
「ところが、厚生労働省が検診を勧める『5大がん』(胃、大腸、肺、乳、子宮頸がん)ではないため、公的ながん検診の対象にもなっていないんです」
乳がんなら「しこりに気づいた」、胃がんなら「検診で異常が見つかった」など、何かしら発見の機会があるものだが、すい臓がんは、その機会が極端に少ないのだ。
「そして、『腹痛がある』『黄疸』などの症状が出たときには、既に手遅れのケースが大半。すい臓がんがステージ3~4まで進行してしまっている状態が多いんです」
なぜすい臓がんは手遅れとなるケースが多いのだろうか。そこにはすい臓の働きが関係している。
すい臓は、「消化液の『すい液』を1日1~1.5リットル作り十二指腸に送り出す」「血糖値を下げるインスリンなどのホルモンを作って血液中に送り出す」という2つの重要な役割を果たす臓器だ。
「すい臓の周囲には胃や十二指腸、肝臓などの臓器が密集しており、転移しやすいんです。血管や神経、リンパ管などが周囲に密集していますので、がんが大きくなるとそれらが刺激され、がん性疼痛も出ます。進行も早いため、痛みを自覚するころには、もはや切除手術もできないほどがんが広がっています」
見つけにくく、見つけたと思っても手術もしにくい……。なんとも絶望的だが、私たちは、この恐ろしいすい臓がんからは命を守れないのだろうか?
「そんなことはありません。手術で切除さえできれば、根治することも可能になってきます。そのためには、『“超”早期発見』することが不可欠だと思います」
超早期発見のためには、「自分はすい臓がんリスクがどれだけあるのかを把握すること」が最も重要だと花田医師は語る。
「『すい臓がんの危険因子』とは『喫煙、飲酒、肥満、糖尿病、慢性すい炎、すい管拡張、すいのう胞、すい臓がんの家族歴がある(親、子、きょうだいにすい臓がんの人がいる)』などです。この危険因子のうち『複数が当てはまる』場合は、すい臓検査の受診をお勧めします」
これらの危険因子は、すい臓がんに限ったものではない。「本当にこれでがんが見つかるの?」と思う人もいるかもしれないが、その効果は花田医師が実証済みだ。
花田医師は2007年より世界に先駆けて、「すい臓がん超早期発見」のための病院と診療所の連携プロジェクト「尾道方式」を立ち上げている。
これにより、花田医師のいるJA尾道総合病院で2017年に診断されたすい臓がん患者の5年生存率は、なんと「約20%に達した」という。
「すい臓がんの『危険因子』が複数ある患者さんに、かかりつけ医や最寄りの診療所で、“無症状”でも腹部エコーなどを受けてもらいます。そして、少しでも疑わしい場合は中核病院を紹介してもらい精密検査をします。それが超早期発見=生存率上昇につながるんです」
さらにこの尾道方式は現在までに全国50カ所以上で実施されており、2017年の診断例で5年生存率が22.1%もあるという。
単純比較はできないが、この尾道方式は、最新の5年生存率の約“2倍”もの数値をたたき出しているということになる。
「あるとき、70代のお母さんと一緒に来院されていた50代の女性が尾道方式で初期のすい臓がんと診断されました。早期に見つかったので、幸い娘さんは手術して、元気になることができたんです。それから何年もたち、高齢になったお母さんが亡くなる直前、娘さんに『花田先生に助けてもらってよかったね。あなたにお葬式を出してもらえてよかった』との言葉を残して、天国に旅立たれたそうです。娘さんがすい臓がんを克服し、お母さんをみとることができてよかったと、胸がいっぱいになりました」
さらに「自分から検査を申告して、早期発見につながった」事例も。
