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’17年9月に発表された厚労省の調査では、100歳以上の人口は6万7,824人と、47年連続で増加。日本はいま、猛スピードで「人生100歳時代」へ向かっている。とはいえ、せっかく長生きできても、充実した日々を送るのとそうでないのとではまるで違う。そこで、安心して100歳を目指すための知恵を、人生の先輩に聞いた。

 

「平たく言えば、『音楽ってすごい!』と思っていたら、96歳になっちゃったのよ(笑)」

 

そう話すのは、96歳の現役ピアニスト・室井摩耶子さん。ここ数年「長寿の秘訣」を聞かれることが増えたという。「とくに健康法といえるものはないの」と言いながらも、放たれるオーラはキラキラ輝き、まさに「幸せなご長寿」そのものだ。

 

室井さんとピアノとの出合いは6歳。ちょうど大正から昭和へ変わったころだった。戦時下にソリストとしてデビューし、35歳でクラシックの本場・ヨーロッパへ。ドイツで出版された『世界150人のピアニスト』で紹介される演奏家でもある。

 

ピアノ一筋に生きてきた室井さんは、「ピアノ以外はケ・セラ・セラよ」と笑う。

 

「気持ち的には『年齢不詳』なので、食事も好きなときに好きなものを食べています。ただ、お肉はよく食べますね。これはドイツに行った際に、周りの人の体があまりに大きくて『この人たちと同等のエネルギーがないと、とても競争できない』と思って以来。わたし、『肉食女子』なのよ」(室井さん・以下同)

 

基本的には自炊だが、調理時間は30分以内がマイルール。

 

「そのぶん、ピアノの練習をしたいんですもの。お総菜を買うこともありますよ」

 

いっぽう、現役の演奏家ならではの「美意識の高さ」も。

 

「いまさらお化粧したって始まらないじゃない、と思いますけど」と言いながら、アイブローとアイラインを。また、普段着という赤い花柄ニットに、ビーズのネックレスを合わせたコーディネート。クローゼットの中は、美しいドレスでいっぱいだ。

 

「素敵な音楽を演奏するんだから、着ているものもそれに見合うものじゃなくちゃ」

 

そして、なんといってもその輝きの秘訣は、いくつになっても挑戦し続けること。

 

大正生まれの女性が35歳にして海外に武者修行に出ることが、いかに特別なことだったかは想像に難くない。39歳、ベルリンでデビュー。以来、精力的に演奏会を行った。

 

「日本では大学を卒業したら一応プロフェッショナルですが、ヨーロッパでは常に成長し続けなければ、二度と演奏会に呼ばれません。だからずっと、すごい剣幕で勉強していましたよ(笑)」

 

日本への帰国は61歳。一般的には「リタイア」がよぎる年齢だが、室井さんが戻ってきた理由は、真逆だった。

 

「60歳を過ぎて、いよいよ人間としての成熟期を迎えたと思ったわけです。でもドイツにいたままだと、どこかで『あの人はエトランゼ(よそ者)だから』と見られてしまうかもしれない。ならば日本に根を下ろして、世界に対抗しようと」

 

最後に、室井さんはこう語る。

 

「結局ね、私はただピアノが好きなだけなの。でも、それが今日まで私を現役でいさせてくれているんでしょうね」

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