尖閣、竹島、北方領土……。国土に危機が迫る今、わかりやすく問題を解説した本はある? 「読書の技法」(東洋経済新報社)がベストセラーになっている、元外務省主任分析官の佐藤優氏に聞いた。
「領土問題の本質は、ズバリ“動物の縄張り争い”です。犬が大声で騒ぐのと同じ。隣のワンちゃんとうちのワンちゃんがいがみ合えば、うちのがやっぱりかわいい。それは普通の心理。ほえる理由を極力、理解することが大事です。
まず、日本の立場を押さえるため『日本の領土問題─北方四島、竹島、尖閣諸島』(保阪正康、東郷和彦著800円 角川書店)をオススメします。北方領土と竹島、尖閣諸島の問題と、それらへの今後の処方箋が書かれています。
たとえば北方領土に関しては、4島返還を主張しています。理由は「ロシアは日ソ中立条約を破って占領したわけだから、ロシアに取られる筋合いはない。戦争に負けたから妥協しなければいけなかっただけなのだ」と。歴史にまで視野が伸びている良書です。
竹島については、あまりいい本がないんです。しかし『領土ナショナリズムの誕生─「独島/竹島問題」の政治学』(玄大松著6,090円 ミネルヴァ書房)は、日韓両国の立場を徹底的に調査して書かれています。
領土問題がどういう歴史的経緯で起きているかということを知るには『現代の日本史 改訂版』(島海靖、三谷博、渡邉昭夫、野呂肖生著4,600円 山川出版社)がいちばん。実業系高校向けの教科書ですが、中国や韓国がなぜこんなに反発するのかという理由が見えてきます。
さらに、世界の領土問題について知りたいなら『現代用語の基礎知識2012』(2,980円 自由国民社)が、非常にバランスが取れていていいですね。「国際情勢」「各国事情」というコーナーがあるので読んでみてください。
今、世界の国々は、弱肉強食で動き始めています。しかし私たちは、悪いのはすべて外国だというような「マンションの変人」になってはいけません。筋が通っていても、一方的に主張すると「国際社会」という共同マンションの中では、生きにくくなります。
そこで、どの問題に関してどこまでがんばるか、バランスが重要なのです。隣のピアノがうるさいとケンカするのも手ですが、話をして、折り合いをつけることも必要です」