いま、農作業に参加できる体験型の宿が静かなブームだ。食に対する関心がひときわ高い現代人にとって、目の前で作られた野菜は宝物。また共同して進めた農作業は宿主との絆を深め、リピート客が増える。「農家民宿」の勢いは止まらない。「ニッポンを観光から元気に」を提唱する株式会社井門観光研究所の井門隆夫所長に農家民宿の魅力を聞いた。
「ご主人や奥さんが自ら包丁を持ち、地産地消を徹底。『安心』『安全』で新鮮な野菜や魚介をいただけることですね。『食育』にも役立ち、子ども連れにもうれしいところが第一番です」
食の安全は、いまや消費者の最大の感心事。施設が自宅兼用ということもあり、料理人を雇わず格安料金で本場の料理をいただけることも人気の要因だそう。宿によっては、農業体験ができ、実際の生産現場を見ることができる。子供たちにとって、畑に成る作物や地中から掘り出す野菜は新鮮な驚きだろう。都会育ちの若い母親にとっても稀有な体験に違いない。
実際に、野菜嫌いの子供が収穫体験で野菜好きになった、という話はよく聞く。新鮮で味は格別、まして額に汗して作業しての結果なのだから、作物の大切さや農作業の苦労や喜びを身をもって知ることができる。まさに『食育』で、おろそかにできない付加価値も身に付く。
「ただ農家兼業の宿がほとんどなので、農繁期には忙しくて休業することもあるから、事前に確認しておくことが必要です」(井門さん)
またセルフサービスが基本なので、観光旅館などの上げ膳据え膳サービスを期待する人には向かない。「お客さんではなく、田舎のお母さんに会いに行くイメージ」が必要だ。事実、農家民宿のリピーターになる人は、農作業体験はもちろん、宿のご夫婦や家族とのコミュニケーションを求めて宿泊する人が多い。特に都会でストレスを抱えた人には、癒やしの場所であり、人間関係のぬくもりさえ感じることができるからだろう。