’13年11月に総務省が発表した調査によれば、子育てしながら働いている女性の割合が全国でもっとも高いのは、島根県だった(’12年10月の調査)。県内で、小学校に入る前の乳児を育てている25〜44歳の女性は約2万7千800人。その74.8%にあたる約2万800人が、正社員やパートなどで働いていることがわかった。働く女性に優しい、島根県の秘密とは?
「子育てを支援する環境が整っていることが、働きたいというお母さん方の後押しになっているのでは」と今回の調査の結果を分析するのは、島根県少子化対策推進室の湊直樹室長。
島根県では’07年以来、子育て環境づくりの一環として「こっころ」と呼ばれるプロジェクトを立ち上げた。「こっころ」とは、イタリア語で「かわいい子供」と言う意味。子育て情報を掲載したメールマガジンの配信や、子育て中の女性が店舗で割引などのサービスを受けられる協賛店を増やすなどが、その内容だ。
「とくに、子育て中の従業員を応援する企業を認定する制度『こっころカンパニー』の影響が大きいでしょう」(湊室長)
バースデー休暇や、男性の育児休暇取得の推奨など、仕事と子育ての両立支援に積極的に取り組んでいる企業は、県から「こっころカンパニー」と認定される。
「せっかく育てた女性社員が退職してしまうことを防げますし、結婚・出産を控える若い女性にとっても魅力的な企業として映ります。今では、県内の241企業が認定されています」(同前)
また、子育て家庭の孤立を防ぐため、交流の場として設けたサロンを「こっころ隊」として登録する取り組みも。県内157カ所のサロンは、子育てや仕事の情報交換の場として、地域の母親たちに活用されているそうだ。
「島根県では、6千200万円の予算を各市町村の子育て関連事業の補助に充てています。地域に合わせ、きめ細かなフォローをしています」(同前)
たとえば、学童保育の「放課後児童クラブ」。通常は国の補助金で運営されており、児童の数が規定の人数に満たない場合は運営できない。しかし島根県では、県の予算を使うことで運営が成り立っているクラブも多いという。その取り組みのかいあって、’13年に行った県の世論調査では、「仕事と子育ての両立などの視点で、子育てしやすい環境であると思うか」という質問に「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した人が、過半数を超えた。
また、子育て中の女性が心配なく働くには夫の理解が不可欠。松江市内で働く高橋恵子さん(34)は、「夫に助けられている」と話す。
「平日、忙しくしている私を気遣ってか、休日は夫が子供を連れて出かけてくれます。ふだん、自分の時間がないので、私には貴重な自由時間になるんです」
高橋さんは、6歳の息子と3歳の娘を育てながら、障害者向け福祉サービス事業を運営する「若草福祉会・若草園」で働いている。平日は、同居している義母が子供の送り迎えのほか、家事も手伝ってくれるそうだ。
「義母も、共働きで子供を育てた経験者なんです。子育て当時は、やはり義父の両親に手伝ってもらっていたそうです。だから、私の立場も理解してくれるんでしょうね」(同前)
世界遺産にも登録された石見銀山がある島根県。その石見銀山がモデルとされるアニメ『もののけ姫』では、女性が製鉄所で元気に働くシーンがあった。島根県には「女も働く」「男も子育て」の文化が根付いていた。