銀行が「元本保証」の預金しか扱わなかったのは20年以上前の話。現状はなりふり構わず高リスク商品を売りつけようと高齢者を狙っている。私たちが親を守る知識が必要だ!
「銀行では預金以外にも、投資信託や生命保険など『元本保証』でない商品も扱っています」
そう語るのは、国民生活センター相談情報部の稲垣利彦さん。’97年から投資信託を、’01年から保険の販売を始めた銀行。20年以上前から多くのリスク商品を扱っている。
当然、顧客にきちんと説明し、リスクを理解してもらって販売しなければならない。投資経験ゼロの人に、複雑な設計のリスクの高い商品や、元本保証を望む人にリスク商品を勧めてはいけない。
特に高齢者には、厳重に注意して販売するよう、全国銀行協会がガイダンスを示しているが、守られているとはいえないだろう。生命保険の銀行窓口販売の相談件数および契約当事者が60歳以上の相談割合(’17年2月・国民生活センター)を見ても、相談者の約8割が60歳以上の高齢者なのだ。
「高齢の相談者は、『銀行だから、元本が減るような悪いものは勧めないだろう』と思ってしまう人がいます」(稲垣さん)
ジャーナリストの石川結貴さんは、一人暮らしをする86歳の父・Bさんとの電話で「米ドルで貯金して、保険もついてくる契約をした」と聞いた。
「不審に思い、電話を切って調べたらハイリスクな『外貨建て保険』だとわかりました。もう一度電話して寝ていた父をたたき起こして、契約日を聞きました」(石川さん)
契約日は6日前。クーリング・オフができるかどうかはわからないが、翌日、実家に向かった。クーリング・オフとは、契約から8日以内(マルチ商法などは20日以内)であれば、無条件で契約や申し込みを解除できる権利をいう。ただし、クーリング・オフできない契約もあるので、注意が必要だ。
銀行に行ったのは契約から7日目。Bさんが契約したのは、幸いにも、クーリング・オフ規定のある商品だった。すぐにクーリング・オフの手続きをとったという。
「銀行は何度も『父のため』と言いましたが、実際は、銀行の利益が最優先でしょう。でなければ、ハイリスクな外貨建て保険を、投資経験も理解力もない高齢者に勧めますか」(石川さん)
全国消費生活相談員協会専務理事の阿部美雪さんは語る。
「よくわからないものは契約しない。この一言に尽きるのですが、なかなかトラブルは減りません」
だとしたら、私たちは、親が銀行で悪質な勧誘にあったとき、どう守ればいいのだろう。阿部さんに5カ条を教えてもらった。
【1】「銀行は、今、元本割れリスクのある商品を販売している」と親に伝えておく
先述のとおり、銀行では20年以上前から、リスク商品を販売しているのが現実だ。
「定期預金の満期や、退職金が入ったときなどに、銀行がリスク商品を勧めることがあります」(阿部さん)
何度も親に話しておこう。
【2】親とこまめにコミュニケーションをとる
クーリング・オフできるのは8日間。半年に1度の電話などでは、手遅れになる可能性が高い。クーリング・オフ期間を過ぎてからでも銀行と交渉できるが、何かあったら早めに連絡を取り合う良好な関係を親と築いておこう。
【3】親から「契約した」と聞いたとき、絶対に責めない
私たちがつい言ってしまう「どうしてそんな契約をしたの」は禁句。親を責めると、必要な情報が聞き出せず、次に何かあったとき、それを隠すようになる。親のプライドを傷つけないよう、冷静に、否定せず、ゆっくり話を聞こう。
【4】契約に関する書類やパンフレット、メモ、名刺などを集める
どんな順で書類を渡されたか。また、書類にあるちょっとしたメモなどが、銀行の説明や勧誘方法の証拠になる場合もある。書類はすべて集めて、保管しておこう。
【5】「消費生活ホットライン 188(いやや)」に電話して、対応を相談する
188は、地域の消費生活センターなどにつながる。契約者本人である親に電話させよう。相談員はプロ。実際の契約プロセスや、親の理解度を、親からていねいに聞き取って、交渉の糸口を探る。対応できない場合は、適切な機関を紹介してくれる。
経済ジャーナリストの荻原博子さんは指摘する。
「今の銀行は、日銀のマイナス金利政策などによって収益が悪化し非常に厳しい状態です。そのため、生き残りをかけ死に物狂いで、リスク商品を売って手数料を得る“手数料ビジネス”を行っています」
私たちが全力で親を守ろう。