厚生労働省は4月26日、3~5年ごとの水道料金見直しをルール化する方針を固めた。その見直しルール化で、水道の値上げがいっそう広まるのではと懸念される。経済ジャーナリストの荻原博子さんが解説してくれた――。
全国的に、水道事業は収益が悪化しています。その原因は大きく2つあり、1つ目は、人口減少などにより水道の使用量が減り、事業収入が増えないこと。2つ目は、高度経済成長期に造られた水道管の交換時期が迫っていて、多額の費用がかかることです。
ですが、料金改定は市議会等での議決が必要で、値上げに踏み出せない自治体が多いのです、’17年度に料金改定した自治体は、5.3%しかありません(’18年4月時点・日本水道協会・以下同)。
とはいえ、’17年度に福岡県大任町は42.8%の値上げを行いましたし、静岡市は’20年度に約15%の値上げ、その後も4年ごとに料金を見直すと発表しています。今回の見直しルールが実施されれば、水道料金の値上げが広まるのではないかと、私は心配しています。
実はすでに、水道料金は地域格差が大きいものです。全国平均は3,244円ですが、もっとも高い北海道夕張市は6,841円で、もっとも安い兵庫県赤穂市は853円と、8倍もの差があります(家事用・月20立方メートル使用の場合)。広大な土地に長い水道管が必要な地域で利用者が減ると、1人当たりの維持費がかさみ料金が高騰するのです。
さらに昨年、改正水道法が成立しました。今後は、水道事業の運営権を民間に売却する「コンセッション方式」が可能になります。
現在、全国の3分の1の水道事業者が、給水の経費を料金収入でまかないきれず赤字です(’18年・厚生労働省)。それでも自治体の運営ですから、赤字を税金などで補填して事業が継続できるのです。
運営が民間に移れば、コスト削減か、値上げしかないでしょう。老朽化を放置する事業者も出てくるかもしれません。料金は上がったのに水質は悪化したという最悪のケースも考えられます。
また、日本の水道事業参入をねらっているのは、おもに外国の大手水道事業者です。当然ですが、大きく儲かりそうな、今、料金が安く水質のよい地域をターゲットにして、参入後は、今回の見直しルールを後ろ盾に値上げを行うでしょう。水道料金は、今後、どの地域でも上がっていくと思います。
いっぽうで、利用者が少なく老朽化の激しい、儲けの少ない地域には、民間は見向きもしないでしょう。水道の地域格差はますます広がっていくと思います。
水道は命と直結する大切な公共インフラです。赤字だとしても、手っ取り早く利益重視の民間に託してよいのでしょうか。
そもそも改正水道法は、昨年、国民の関心がサッカーW杯に集中している時期に、わずか8時間足らずの審議で衆議院を通過しました。今でも、国民にていねいな説明がなされたとは思えません。
改正水道法は今年10月から施行されます。将来「あのときが岐路だった」と苦々しく振り返ることのないよう、私たちは深刻なまなざしを向けていきたいものです。