新型コロナウイルス感染拡大の影響で、家族との時間が増えた人も多いのでは。こんなときには、家族の問題。特に’18年に法改正された「相続」について考えてみてはいかがだろう。
「相続なんてお金持ちの問題。うちには関係ない」と思う人は多いが、相続裁判の約3分の1は遺産額1,000万円以下だ。5,000万円以下まで広げると、76.3%に及ぶ(’18年・最高裁判所)。
「遺産は自宅と少しの貯金」という普通の家族が危ないのだそう。そこで、経済ジャーナリストの荻原博子さんが相続に翻弄された家族のケースを例に、「相続トラブル」を避けるための正しい知識を教えてくれたーー。
【ケース1】末っ子だけに生前贈与
〈恵子さん(40歳)は独身。親と同居し、介護も一手に担いましたが、母、父と相次いで亡くしました。父は生前、介護の労をねぎらって、恵子さんだけに毎年100万円を渡していました。相続協議の席で、それを知った2人の兄は激怒!〉
お金など財産を与えることを贈与といい、贈与税がかかります。ただし、贈与税は年間110万円を超えた額にかかるため、恵子さんのケースは非課税。申告も不要です。
ですが、亡くなる前3年間の贈与は、相続財産に含まれるのです。父の遺産が3,000万円だとすると、恵子さんへの贈与3年分、300万円を合わせた3,300万円が遺産総額です。きょうだい3人で分けると、1人分は1,100万円。恵子さんはすでにもらった300万円を引いて800万円を受け取ることに。
また、父の遺産が300万円だった場合、恵子さんへの贈与300万円を合わせた600万円が遺産総額です。3人で分けると1人分は200万円。すでに300万円もらっている恵子さんは100万円もらいすぎで、この分、兄たちは足りません。兄たちの不足分は、恵子さんが自腹を切って払わねばならないことも。
とはいえ相続は、相続人が合意すれば、どのように分けてもOK。兄たちが介護のお礼として目をつぶってくれるといいのですが。
【ケース2】妻は住み慣れた家で暮らしたい
〈時価2,000万円の自宅と約2,000万円の貯金を残して、健一さん(75歳)が亡くなりました。妻は年金暮らしで生活費に不安を抱えていますが、住み慣れた自宅で暮らすつもりです。しかし、教育費にあえぐ2人の子どもから、自宅の売却を提案されました〉
自宅を売却すると妻は住む場所に困りますから、’20年4月から施行された「配偶者居住権」を活用しましょう。
配偶者居住権とは、自宅の権利を、「居住権」と「その他所有権」に分けて、配偶者は居住権だけを相続できる、としたものです。
居住権やその他所有権がいくらかは複雑な計算式があるので、仮に、2,000万円の自宅の1,000万円が居住権、残り1,000万円がその他所有権とします。
健一さん宅の相続財産は全部で4,000万円。法定相続どおりだと、妻が2分の1の2,000万円を、子どもらは1,000万円ずつに分けます。
これまでなら、妻が2,000万円の自宅を相続すると、貯金はもらえませんでした。しかし、配偶者居住権を使うと、妻は1,000万円の居住権と1,000万円の貯金を、子どもらはそれぞれ、自宅のその他所有権を500万円分と貯金500万円を受け取ることができます。
妻は自宅に住み続けられ、また貯金も手に入るので生活費も安心。自宅の売却は、妻が亡くなってから、改めて考えましょう。
「女性自身」2020年5月12・19日合併号 掲載