帰省してきた家族との団らんという“生きる楽しみ”を奪われ、認知症を発症・悪化させる高齢者が増えているという。「我慢の年末年始」ではあるが、老親の“寄る年波”も待ったなしでーー。
「母が電話で、がんで5年前に胃を全摘出した82歳の父が『散歩もできなくなったのよ』と言うんです。『食べたことも忘れていることがある』って。なんだか悪化の一途みたいで、年末年始こそ父と向き合って話したいんですが」
東京都で暮らす51歳の主婦が、ため息まじりにそう話す。しかしコロナ禍。しかも第3波の到来とおぼしきいま、年末年始の帰省を「あきらめざるをえないかも」と悩む人が少なくない。
「コロナ感染での重症者・死者は、圧倒的に高齢者に多く、心臓病や糖尿病などの持病(=基礎疾患)を抱えているとさらにハイリスク。つまり親が『高齢』で『持病あり』となると、最も重症化しやすい条件がそろってしまうんです」
こう話すのは、感染制御の専門知識を有する高知総合リハビリテーション病院院長の小川恭弘さん。
「大前提として肝に銘じてほしいのは、老親のいる実家にこの年末年始“安心して帰省する”のは“不可能”だということ。自覚症状がない“無症状”の感染者が増えているという現状もあります。もし自らの感染に気づかず帰省して、親にうつしてしまったら……。『死なせに帰った』なんてことになってはいけません」
とはいえ、冒頭の主婦のように「元気なうちに会っておきたい」とか「余命を考えたら、この正月が最後かもしれない」など、親の状態と帰省の必要性、切迫度は、百人百様であるだろう。
そこで、「どうしても帰省したい」人のために、感染リスクを抑える「最低限守りたい心得」を小川さんに聞いた。
「まずは、PCR検査を受けて、『陰性』と証明されることです。しかし、次の移動場所や翌日にうつる可能性もある。できれば、大人も子どもも2回は受けるべきですね。帰省先から戻ってからも、検査すべきかもしれません」
そもそも感染者が多い都会から少ない帰省先への移動には、「感染持ち込み」の恐れがある。戻ってすぐの検査で「陰性」であれば、帰省先に「感染持ち込み」をしていない証しにもなる。
「そして移動中は『3密回避』したうえで、先日、東京都の小池百合子知事が発表した『5つの小』を、帰省先の実家でも実践するように心掛けましょう」
「3密回避」はもちろん「密閉、密室、密集」を避けること。そのうえで「5つの小」(=会食は「小(少)人数」「小一時間」「小声」「料理は小皿で」「小まめに消毒・換気」)を実家でも行うべきだという。
「ふだん夫や子どもと過ごしている延長線上に実家を置かないこと。『よそのお宅を訪問する』あるいは『外食・会食する』つもりで行くべきです。実家でも基本的にマスクをつけたまま小声で話します。料理は、大皿料理を各自の直箸で取り分けるのは、接触感染する恐れがありますからNG。あらかじめ小皿に盛りつけるべきです。そして、滞在時間自体を『小一時間』と心掛けるくらいで、ちょうどいいかもしれません」
例年なら家族全員で里帰りするところを、今年は「人数を減らして行く」=「誰かは行かずに家にいる」我慢も必要かもしれない。
そして、政府が勧める「マスク会食」(=マスクをしながら、料理を口に運ぶときだけマスクを口からズラし、口に入れる食べ方)も、実家で実行すべきだという。
また、実家に泊まるのではなく、「Go To トラベルが利用できる場合は、実家近くのホテルなどに泊まるべき」と小川さん。
「さらに『マスク着用、手洗い・うがい励行、手指消毒』を、実家でも移動時でも徹底してください。テーブルや椅子など手指の触れるところを拭ける、アルコールティッシュは必す携帯すべきです」
ちなみに、毎日発表されるコロナ新規陽性者数は、都道府県で数は大きく違うが、これは分母となるPCR検査数自体が大きく異なることも影響しているという。
「たとえば『今日の県内の新規陽性者は0人でした』という県が、PCR検査数も『0件』という発表を平気でしていますので、新規陽性者数だけを見て、『その県に帰省しても安全だ』という理屈には絶対になりません」
やむなく帰省するときは、「最低限の心得」を肝に銘じておきたい。
「女性自身」2020年12月15日号 掲載