老後は悠々自適のはずが、人生の最後にこんな大誤算が待っているなんて! そんなふうに嘆かないで済むように、老後破綻の落とし穴を知っておこうーー。
「老後資金『2,000万円足りない』問題が金融庁の報告書で指摘されたのが2年前(’19年6月)のこと。多くの人が不安に陥れられましたが、やりくり上手の人のなかには『どうにかなりそう』と安心していた人もいるのでは? しかし、油断をすると、瞬く間に貯蓄は底をつくんです」
こう警告するのは、マネー管理術に詳しい経済評論家の加谷珪一さん。老後には“落とし穴”がたくさん。実例を見ていくとともに、専門家に対処法を聞いていこう。
【落とし穴1・がん治療】薬にお金を費やしたが
「3年前に夫の悪性リンパ腫が発覚しました。標準治療である抗がん剤治療と放射線治療を行いましたが、なかなか効果は見えず……。いくつかの病院をまわったところ、ある医師に日本では承認されていない新薬をすすめられました」(60代主婦)
夫は70代前半で、夫婦には十分な貯金はあった。保険適用外の治療はすべてが実費となる。
「夫に治ってほしい一心で、すぐに標準治療から切り替えて、新薬を試すことに。出費は1,500万円近くにのぼりました。しかし、特に効果がなく、すぐ亡くなってしまって……。財産も半減してしまいました」
夫を思う妻の気持ちを考えると、一概に無駄と切り捨てられないこの出費。病気とお金の関係をどう考えるべきだろうか。
「貯蓄がある人のなかには『お金をかければいい医療を受けられる』と信じている人が多い印象があります。でも、日本は国民皆保険制度が整備された国。効果のある医療はかなりの確率で保険適用になっているんです」(加谷さん)
この場合、医師の提案に飛びつかず、標準治療を続けるのもひとつの選択肢だった。
〈対処法〉高額医療=いい医療ではないことを肝に銘じよう。
【落とし穴2・相続】家もらえず老後設計が狂う
「私は同居する父の介護を10年近く続けてきました。施設への送迎から食事の世話。働いている時間以外は、父に尽くしました」
そう語るのは60代独身女性。父も娘の献身ぶりに感謝。唯一といっていい父の財産は一緒に住んでいた実家だったが、生前から「自分が亡くなったあとはお前が住み続けなさい」と言ってくれた。
そんななか、父は風邪をこじらせ肺炎となり、急死してしまう。それまで元気だったことから、遺言書は作成していなかった。
「疎遠になっている弟と妹がいるんですが、2人は財産を3等分にすることを要求してきました。遺言書もなく、私は『寄与分』を主張したのですが、ほとんど認められず。財産を分割するために家は売却することに。持ち家があれば、少ない年金でもやっていけると思っていたんですが……」
この女性は年金生活に入った今も仕事を続けている。
「故人への貢献度に応じて相続分を増やすことができる制度である『寄与分』は証明が難しいんです。介護にかかった時間を時給換算し、施設や移動にかけた費用などとともに記録しておくべきでしょう。そして、やはり遺言書に勝るものはありません」(加谷さん)
〈対処法〉口約束はNG! 遺言書の作成を。
【落とし穴3・住宅】“終の棲家”と思ったのに
「自宅を売って、温泉付き大浴場や24時間のコンシェルジュなどがついた『シニア向け分譲マンション』を3,000万円で購入。夫婦で引っ越しました。しかし夫に認知症の症状が出始め、さらに転倒して体が不自由に。マンションには介護サービスはついていなかったので、マンションを売って、介護付き有料老人ホームに引っ越すことにしました」(70代主婦)
問題はここから。入居条件が60歳以上となっている同マンション。なかなか買い手がつかない。
「息子夫婦に住んでもらおうにも、年齢制限があって住めません。新しく引っ越した老人ホームの月20万円の費用に加え、いまもマンションの管理費月9万円を払い続けています」
資産家のこの夫婦も、このままの支出ではいずれ破綻するという。介護・医療ジャーナリストの長岡美代さんはこう指摘する。
「富裕層に人気のシニア向け分譲マンションですが、重度の介護が必要になった場合には、自宅と同じで、住み続けられないこともあります。管理費は通常のマンションより高めの設定で、修繕積立金と合わせて月10万円くらいかかる例も少なくありません。さらに、一般マンションと比べて販売・流通ルートが確立しておらず、なかなか売れないという問題も起きているようです」
重度の介護が必要になると住めなくなる事例は「サービス付き高齢者向け住宅」でもあるという。
「入居を検討する際には、5年後、10年後に自分がどうなっているのか、そのとき、対応してくれるのかを、あらかじめ確認してからにしましょう」(長岡さん)
〈対処法〉そこが「終の棲家にはなるか」、考えてみよう。