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「これから、私たちの生活に関わる多くの商品の値段がじわじわと上がってきます。しかも、この値上げラッシュは今年で収まるどころか、数年にわたって続くことが考えられますので、今までどおりのお金の使い方をしていますと、家計がもたなくなってしまう恐れが出てきます。’22年は、抜本的な生活の見直しが必要になってくるでしょう」

 

そう警鐘を鳴らすのは、世界の経済事情に詳しい経済評論家の加谷珪一さん。

 

値上げは生活必需品にとどまらず、光熱費や地下鉄などの運賃、民間保険の保険料にも及ぶという。その背景には、「3つの理由」があると加谷さんは指摘する。

 

「コロナ前から続いている問題ですが、アジアやアフリカなどの国では、人口の増加に伴い経済活動が活発化しています。食料品などの需要に対して供給が追いつかない状況が続いていて、モノの値段が上がってきているのです。もう1つは、アメリカと中国の政治的な対立です。アメリカは物資を中国以外の国から調達する、あるいは国内産に切り替えなければならなくなりました。ところが、中国ほど大量生産して安くモノを売る国はないため、今までどおり物資の調達ができなくなり、結果的に値段が上がってきてしまいました」(加谷さん・以下同)

 

さらにここにきて、世界で広がりつつある“脱炭素”の影響が出はじめている。

 

「産油国の側からすると、石油はいずれ使われなくなるエネルギーなので、今のうちに高く売っておきたいという思惑があります。産油国が増産に応じないのは、価格を下げたくないからなのです。原油価格に連動してガソリンの値段が上がってきているところに、コロナ禍による物流の混乱が加わり、輸入品の価格上昇に拍車がかかっています。これらは、短期的に収まる話ではなく、これから5年、10年と続いていくものだといえます」

 

原油価格の上昇はガソリンの値段に直結するほかにも、さまざまな製造コストや、工業製品の原料価格にも影響してくる。

 

そして、ここに来て新たな不安材料が出てきた。2月下旬に勃発したロシアによるウクライナへの軍事侵攻だ。原油価格はこれまで1バレルあたり90ドル程度で推移していたのが、3月3日には約年半ぶりに116ドルを突破した。

 

「火力発電に使われる天然ガスの価格は原油価格に連動しているので、原油価格が上がれば、電気料金、ガス料金の値上げにも直結してきます。また、公共料金は上がり続けていますので、すでに家計を直撃しています」

 

今年の1月からはすでに小麦粉の価格上昇に伴いパンやパスタの値段が上昇。加工の工程が少ない食用油も、原材料の高騰に伴い値上がりした。冷凍食品やコーヒー豆なども、輸入品に関しては、物流コストの上昇が重なり値上げされることに。

 

そして、3月からは食料品を中心とした値上げラッシュが次々に始まった。

 

マヨネーズやトマトケチャップ、醤油、みそなどの調味料から、ハム・ソーセージ、缶詰、レトルトカレーや即席麺まで、これまで値上がりしにくかった加工品などが続々値上がりする。

 

「メーカーは、加工の工程が多い製品については、人件費を削減するなどして値上げを抑える努力をしてきましたが、原材料費や燃料費が高騰したため、値上げに踏み切らざるをえませんでした。小売店は、仕入れ値が上がっているので、本来は最終的な小売り価格を上げなければならないはずですが、客離れを恐れ、今のところはコスト削減で値上げをせずにしのぐ努力をしています。ですが、そうした努力ももう限界。仕入れ値の上昇分は最終小売り価格に転嫁せざるをえない状況になるでしょう。4月以降は値上げがさらに本格化してくるはずです」

 

’79年から1本10円で子どもたちに親しまれてきた駄菓子の「うまい棒」も、4月1日から12円にアップ。食料品以外にも、衣料品や自動車用のタイヤ、トースターなどの家電製品、バス運賃の値上げが予定されている。

 

5月以降は、原油価格高騰の影響から、加工食品以外に生鮮食品の値段も上がることが予想される。国内のビニールハウスなどで栽培されている果物や野菜を中心に、燃料費や配送コストの上昇が見込まれるためだ。魚介類も例外ではなく、漁船の燃料代の高騰がダイレクトに響いてくる。

 

「庶民の味方、100円ショップも100円で販売する品数が減って、200円や300円の価格帯の品物が増えてくることが予想されます。あるいは、値段を据え置いたまま内容量を少なくして販売する『ステルス値上げ』が顕著になってくるかもしれません。今までもお菓子などでステルス値上げは見られましたが、たとえば、今までと同じコーヒーのドリップパックでも安い豆を使ってグレードを落として販売することも考えられます。今後、原材料費や燃料費の高騰に耐えられなくなってきたら、メーカーはダイレクトに価格に転嫁してくるでしょう」

 

原油価格の高騰といえば、思い起こされるのが、’70年代に起きた“オイルショック”だ。

 

’73年10月に中東の産油国が原油価格を70%引き上げたことにより、一気にインフレ懸念が高まったオイルショックでは、トイレットペーパーなどの買い占めが起こり、今でも原油が高騰するたびに「オイルショックの再来?」と騒がれる。

 

「原油価格が2月下旬に1バレルあたり100ドルを超えましたが、140~150ドルまで一気に上がることはないと思いますので、急激なインフレは起こらないでしょう。ただ注意したいのは、’70年代のオイルショックは2回あり、1度目は急激なインフレとともに給料も上がったので、それほど家計へのダメージは感じられなかったそうですが、’79~’80年にかけて起こった2度目のオイルショックの際は多くの企業で給料が上がりませんでした。今回は2度目の状況に似ています。物価は上昇するのに給料が上がらないので、家計へのダメージは大きくなるでしょう」

 

将来的に気になるのは、人口減の影響。鉄道やバスなどの公共交通機関は、燃料費の高騰により料金の値上げに踏み切るケースが見られるが、それに加えて、日本は人口が少なくなることが予想される。利用者の減少が続けば、運賃収入だけでは路線を維持できなくなり、断続的に料金の値上げが行われる可能性があるという。

 

これから何の値段が上がるのか知ったうえで今までの消費行動をいったんリセットして。値上げに負けない家計をつくろう。

 

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