「相続人の一人が認知症に……」 「わが家は相続人が行方不明」
親が90歳、100歳まで存命なのは心強いが、そのぶん、子世代も60代、70代と高齢になる。勃発してくるのが「老々相続」問題だーー。
「老々相続とは、高齢の親の財産を老いてきた子世代が相続すること。長年、老々介護をしてやっと親御さんを見送った後、『老々相続』という仕事が待っています。少しでも困らないために、いまから準備をしておくことは大事です」
注意をうながすのは、老々相続問題に詳しい行政書士の塩崎由花里先生だ。
「通常、法定相続人は配偶者と子です。配偶者と子がなければ親やきょうだいとなり、老々相続の場合、相続人が認知症や行方不明になってしまうケースがあり、相続手続きが難航します」
考えられるケースを紹介しよう。
■コミュニケーションをとることがいちばん大事
【1】法定相続人が認知症に
「法定相続人が認知症になると、成年後見人をつけなくてはなりません。成年後見人の手続きには3~6カ月ほどかかり、その間は本人に必要な法律行為ができません。遺産分割協議もできないため、相続手続きに長い期間がかかります」(塩崎先生・以下同)
【2】法定相続人がすでに他界
「法定相続人である配偶者と子どもがすでに亡くなっている場合、孫がいれば、相続は孫に引き継がれます。亡くなっている子が複数いると相続人が増え、20人、30人というケースも。全員で遺産分割の話し合いをして、手続きを進めるのは容易ではありません」
【3】相続人が行方不明
「私の担当したケースで、何十年も前に音信不通になったお子さんがいました。所在地を判明させ、やりとりできるまで数年がかりでした。さらに相続の手続きをしている途中で相続人が亡くなってしまい、手続きが初めから、となるケースも」
相続手続きが何年も進まず、空き家が長年放置され、銀行口座が凍結され、財産分与がままならない事態にもなるという。
回避策として「『遺言書』を作成しておくこと」と塩崎先生は説明。
「自分は誰にどの財産を、どれだけ残したいのかを考えて遺言書を作成しましょう。その際に遺言執行者を指定しておけば安心です」
遺言書は公正証書で作成するのが最善だが、それが難しい人も多い。そこで、今回は自筆で遺言を残す方法を教えてもらおう。
「『全財産を妻○○に相続させる』という文言でも可能ですし、お世話になった知人に財産を渡したいとか、寄付することも可能です」