大企業は平均3.8%の賃上げ実現も「中小企業に波及しない」と専門家
画像を見る 3月17日の会見で「岸田政権の最重要課題は賃上げです」と語った岸田首相

 

■3.8%賃上げされても以前の水準は遠く

 

家計の現状を見てみよう。厚生労働省の統計によると、2023年1月、賃金は0.8%と微増するものの、消費者物価は5.1%の上昇。これらを考慮した実質賃金は前年比で4.1%のマイナスだ。ファイナンシャルプランナーの山口京子さんによると、実質賃金とは……。

 

「イメージとしては、給料が30万円のAさんは、0.8%アップで月2400円給料が増えます。Aさんは喜びますよね。でも、Aさんの生活費が20万円だとすると、物価が5.1%上昇していますから、同じ買い物をしても、10200円支出が増えることになります。

 

収入増加の2400円から支出増加の10200円を差し引くと、月7800円の赤字。つまりAさんの場合、実質賃金は7800円減っているということです」

 

月給30万円の人の場合、賃金アップがなく、物価上昇率がこのまま続けば、1年間で93600円もの赤字が積み上がることになる。これが中小企業に勤める多くの人の実情だという。

 

末廣さんは「長期的な視点に立った生活実感は、厚労省が発表する実質賃金よりずっと厳しい」と指摘する。というのも、厚労省の実質賃金には食費や日用品費などの物価変動は含まれるが、社会保険料や所得税などの税金、不動産価格、株価などは含まれない。末廣さんはこれら4要素を加えた物価指数をもとに「実感に近い実質賃金」を試算した(グラフ参照)。

 

2012年を100とすると、厚労省の実質賃金は2012年からの累計で6.5%減少しているが、実感に近い“生活実質賃金”はさらに低く、11.8%も下がっている。

 

「2017年まで社会保険料が段階的に引き上げられたことや、アベノミクスで株価が高騰したことなどが影響しているのでしょう。金融資産や不動産などを持たない一般の方にとっての苦しい生活実感を反映していると思います」(末廣さん)

 

荻原さんは、国民の所得に対する税や社会保険料などの負担割合を示す「国民負担率」の増加の影響が大きいという。

 

「財務省によると、国民負担率は10年前は約40%でしたが、今では46.5%。家計が苦しくなっている原因のひとつです」(荻原さん)

 

実感に近い実質賃金が2012年比で11.8%減だとすると、平均3.8%の賃上げを実現した大企業に勤める世帯ですら、生活が豊かになるかは疑わしい。ましてや、賃金アップが期待しづらい中小企業に勤める人は貧しくなる一方だ。世間の賃上げムードにだまされず、冷静に家計を見極めよう。

【関連画像】

関連カテゴリー:
関連タグ: