今年6月に逝去したベニシアさん。彼女の自然に寄り添う暮らしは、多くの人たちの共感を呼んだ(写真提供:梶山正さん) 画像を見る

“憧れの古民家暮らしを見たい”そんなファンが大原へたびたび訪れてくるほど人気者だったベニシアさん。大病を患い、放送が途絶えていた番組の新作を待ちわびる声もむなしく、彼女は6月21日に亡くなった。

 

ベニシアさんの夫で写真家の梶山正さんは、「うちに来た人のこともすごく大切にしていました。名前も絶対覚えるしね」と在りし日の彼女を語る。ベニシアさんの晩年と、梶山さんの秘めた思いを聞いた――。(全2回の第1回)

 

京都・大原。あの人が丹精込めて作り上げたその庭は、“主人”のいない今年の秋も、キフネギクなど季節の花が咲き誇っている。

 

「ベニシアが動けんようになってからは、草むしりとかそんなんは、僕がちょこちょことやってます。彼女が植えた花はいまも、きれいな花を咲かせてくれるんです」

 

庭先で記者を迎えた梶山正さん(64)は、こう話すと穏やかな笑みを浮かべてみせた。

 

彼の妻、ベニシア・スタンリー・スミスさんはイギリス出身のハーブ研究家として日本で注目を集めた。

 

’07年に出版された彼女の初の著書『ベニシアのハーブ便り』(世界文化社)はベストセラーに。山岳写真家の梶山さんも、撮影と日本語への翻訳を担当した。

 

その2年後に放送が始まったのが、NHKの『猫のしっぽ カエルの手』。ベニシアさんら家族の、大原での暮らしを10年以上にわたり紹介し、およそ120本の番組が制作された。NHKでも異例のヒット番組だった。

 

築100年を優に超す古民家で、自然に寄り添いながら、手作りを旨としたベニシアさんのライフスタイルは、同世代の女性を中心に、多くの人々の共感を呼んだのだ。

 

「散らかったままやけど、ま、ええか。そのほうがリアルやろ」

 

こう言って、梶山さんが招き入れてくれた古民家。玄関脇のテラスに藤棚、キッチンの壁に貼られたタイル、その真ん中に鎮座する薪ストーブ、アンティークの棚には手製のハーブティーの缶が並んで……。 番組や書籍ですっかり有名になったベニシアさんの家は、ほぼ往時のままのようだ。

 

以前と異なるのは、かつて家族が食卓を囲んでいた和室。その床の間の前に遺影が飾られ、位牌と、その横に小さな骨壺が置かれていること。

 

「27年前、まだ幼なかった息子の悠仁を連れて家探しをして。ベニシアは里山に囲まれた大原の、この古い民家を見つけたとき、いきなり言ったんですよ。『私はこの家で最期を迎えたい』って。そのベニシアの思いがかなったことは、本当によかったなと思っています」

 

今年6月21日、ベニシアさんは住み慣れたこの自宅から旅立っていった。72歳だった。

 

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