「最近、頭がボケてきまして、いろんなことを忘れちゃうんです」
と語りだしたのは、群馬県藤岡市にある中華料理店「銀華亭」の天川ふくさん(101)。
「本当にボケた人は“自分はボケていない”と言うんだよ」
すかさず接客をしていたスタッフがツッコミをいれる。
「じゃあ、私はまだ大丈夫だわ」
店いっぱいに笑い声が広がった。
月?土曜日の週6日、厨房に立つ天川さん。
最近は腕の筋力が落ちたこともあり、重い中華鍋を振るのはやめたが、麺をゆでたり、チャーシューやメンマを盛り付けたりと大忙しの日々。
取材に訪れた日は気温34度で猛暑日に迫る。熱気がこもる厨房で、背筋をピシッと伸ばして額に汗を光らせながら働く姿は、100歳を超えていることをまったく感じさせない。
「長寿の秘密を聞かれることが多いんですが、特別なことは何もしていないんです。
店で足を鍛えているのが元気の秘訣かもしれません。麺をゆでている間に、軽くスクワットをしたり、ストレッチやかかとの上げ下げをしたりして体を動かすようにしています」
調理の合間にお客さんと話すのも天川さんにとっては大切な時間だという。
「去年100歳になって新聞に取り上げてもらい、お客さんがずいぶん増えました。今日も95歳の方がわざわざ東京から会いに来てくれました。老後や介護のアドバイスをしたり、趣味の草花のことを教わったりと楽しくお話ししてたくさんの元気をもらいました」
鶏ガラスープの懐かしいラーメンだけでなく、チャーミングな笑顔で接客する天川さん目当てのファンも多く、開店前から店の駐車場が埋まる。
店先では等身大の天川さんの写真パネルが出迎える。
大正12年に生まれ、戦後、26歳のときに見合いで結婚した夫・孝さんの実家は映画館を経営。テレビにおされて映画の人気が低迷し、42歳のときに「銀華亭」を開いた。
「これまでいろいろあったけど、ずっと笑って乗り切ってきました。笑顔でいるのがいちばんですよ」
21年前に、孝さんが82歳で亡くなり、二人三脚でやってきた店をたたもうと思ったことも。長女と次男が手伝い、60年間、店の味を守り続けている。
「毎朝バナナを半分食べてから厨房に向かうのが日課。仕事以外では庭の手入れするぐらい。
昔のように朝も夜も働くことはできなくなりましたけど、よくまあ続けられたと思いますよ。
この年になるまで働けることは幸せです」
今日も「銀華亭」では天川さんの笑顔が出迎えてくれる。
【PROFILE】
あまがわ・ふく
1923(大正12)年2月11日、群馬県生まれ。42歳から中華料理店「銀華亭」の営業日の昼は欠かさず厨房に。