家族のために貯めていてくれた親の遺産が相続できないというのは悲痛だ(写真:Ushico/PIXTA) 画像を見る

相続と聞くとすぐ「私たち庶民には関係ない」と言う人が多い。

 

「私も以前は相続など人ごとでした。だから知識もなく対策もせずに直面してしまい、大変でした」

 

そう話すのは『マイナス相続サバイバルガイド』(東洋経済新報社)の著者で、ジャーナリストの永峰英太郎さん。

 

「母が亡くなったとき、父は認知症で署名もできない状態でした。それを知った銀行は遺産相続に応じてくれず、母がコツコツ貯めた預金の相続にも苦労しました」(永峰さん、以下同)

 

銀行の相続対応に、預金額の多寡は関係ないのだという。

 

また、相続トラブルは“お金持ちに限った話”ではない。裁判沙汰になった相続トラブルは、遺産額1千万円以下が33.8%、1千万円超5千万円以下が43.8%。実に約8割が遺産額5千万円以下で起きている。“争続”は富裕層ではなく、一般家庭で起きることなのだ。

 

「ただ私が経験した相続問題は、親が元気なうちであれば簡単な手続きで解決できるものばかり。早めに準備すれば怖くありません」

 

永峰さんが見た、ごく普通の家庭にありがちな相続トラブルとその対処法を聞いた。

 

【1】母が実印を持っていないと、父の死亡保険金を請求できない

 

「私の義母は『夫の実印があればいいんでしょ』と思い、自分の実印を持っていませんでした」

 

だが、夫亡き後の保険金の請求や遺産相続、自宅の売却など高額が動くときに本人の実印は必須だ。

 

実印の登録は、役所に本人が出向くか、自筆の委任状があれば代理人による申請も可能。

 

「仮に義母が認知症で委任状も書けなかったら、印鑑登録ができず、保険金の請求もできなかったでしょう」

 

【2】マイナンバーカードがないと、公的書類の発行が面倒

 

たとえば遺産分割協議書の作成には、戸籍謄本や印鑑証明などが必要だ。マイナンバーカードがあれば、本人の了承を得て暗証番号を聞き、公的書類の多くをコンビニで取得できる。カードがなければ、本人か委任状を持つ代理人が役所に出向くしかない。カードの有無でかかる手間は雲泥の差だ。

 

【3】親の普通預金が引き出せず、介護費用にひと苦労

 

「親自身の介護に使うと銀行窓口でどれだけ頼んでも、預金者が認知症だと普通預金は出金できませんでした。親から暗証番号を聞いておけばよかったのだろうか」

 

大手銀行などの「代理人予約」を利用しよう。親と代理人がそろって手続きしておけば、認知症の診断後は代理人が取引できる。

 

【4】定期預金は、認知症になったら解約できない

 

定期預金の出金は預金者本人か、委任状を持つ代理人による手続きが必要だ。認知症の悪化や意識不明などで委任状にサインができないと、定期預金は解約できない。

 

「逆に、自分のサインが書けるうちなら解約できます」

 

高齢の親の定期預金は自動継続をやめて、出金しやすい普通預金にまとめておくと安心だ。

 

【5】母が認知症なため、父の死亡保険金がゼロに

 

保険金は受取人か、委任状を持つ代理人が請求するものだ。

 

「私の知人は父の死後、認知症の母に代わって保険金を請求しましたが、保険会社は『委任状がないと手続きできない』の一点張りだったそうです」

 

しかも生命保険は原則3年の時効がある。時効を過ぎれば請求権が消滅し、保険金はゼロになる。

 

保険の受取人が高齢だと危険だ。受取人の変更申込みは契約者の電話でOK。子どもに変更しよう。

 

【6】ネット銀行は紙ものがなく、口座の有無さえ把握が困難

 

「実家で預金通帳や保険の書類などを探すと、利用中の金融機関はあらかたわかると思います」

 

それでも不明な場合、保険は「生命保険契約照会制度」、証券は「証券保管振替機構」の活用を。

 

「ただし、ネットの金融機関は書類がないことが多く、見つけづらい。親に持っている口座を聞いておきましょう」

 

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