最近、高齢者の地方移住に関心が集まっている。その根底には、都市部での医療や介護体制の不安がある。読売新聞社の世論調査でも、「介護に不安を感じる」人は86%に達し、「都市部の高齢者が、介護を受けやすい地方への移住に賛成」は61%だった(’15年10月)。
「政府も、地方移住を後押ししています。その内容は、健康に問題のないアクティブシニアが移住し、元気なうちに趣味やボランティア、仕事などを通じて人間関係を構築。健康に問題が生じても、医療や介護サービスを受けながら生活するコミュニティをつくっていこうというものです」
そう語るのは、経済ジャーナリストの荻原博子さん。政府は、50〜60代で移住することを想定しているが、50代はまだ子どもの教育費に逼迫している世代。萩原さんも「現実的とは言えないでしょう」と話している。
しかし、老後の生活について考え始めるのは、早いに越したことはない。そこで、萩原さんが地方移住に必要な4つの準備をあげて解説してくれた。
【1】移住先の選定
「親戚が住む田舎があれば第一候補ですが、都会生まれで田舎のない人は、移住者が多く住む地域が住みやすいと思います。移住先の’14年人気ランキングでは1位は山梨県、2位は長野県、3位は岡山県でした(NPO法人ふるさと回帰支援センター)。都市部での移住セミナーをほぼ毎月開催する自治体もありますので、参加してみるといいでしょう。農業がしたいなら、農業支援に手厚い自治体もあります。広島県北広島町は、新規就農者に農業機械の購入費として最大500万円の助成金を用意しています。農業研修制度の有無も、自治体選びの基準になるでしょう」
【2】地方移住が体験できるお試しツアーに参加しよう
「たとえば、山梨県の『農業見学ツアー』は現地集合ですが、参加費は無料です。また長野県の『信濃大町冬の暮らし体験ツアー』は1泊2食付きで7千円。雪かきや雪道運転も体験できます。お試しは快適な季節より、悪天候の体験をお勧めします」
【3】もっとも大切な人間関係づくり
「地域に通って、お祭りやイベントなどに参加し、地元の方と顔なじみになってください。長野県飯島町では1カ月6千400円〜、最長4カ月借りられる『田舎暮らしリサーチ住宅』があります。そういった拠点があれば、しばらく滞在して現地の就業支援センターやハローワークに行き、仕事を探しましょう。自分で生の情報をたくさん集めて、地方での暮らしをシミュレーションしましょう」
【4】経済的な準備
「たとえ仕事が見つかっても、年収はかなり下がると覚悟してください。農業を始める方は、5年間は無収入でも暮らせる蓄えが欲しいところです。生活費は都市部より少額ですみますが、それでも老後資金は必要です」
また、移住はむずかしいがたまには田舎暮らしも楽しみたい人には、シェアビレッジという注目の活動がある。
「秋田県南秋田郡五城目町の古民家を軸に、『年貢』と呼ぶ年会費3千円を払えば村民になれ、1泊3千円で古民家に宿泊できます。『一揆』と呼ぶ地元での夏祭りや『寄合』と呼ぶ、村民(出資者)が集まる都市部での飲み会に参加すれば、第2の故郷ができるでしょう」