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「うちの親、年をとって頑固になったし、ボケてきたのか、よくわからない行動をとるし。ホントに困るわ……」。そうストレスを募らせながら、家族の介護に当たっているかたも少なくないのでは?

 

「実は、こうした高齢者の“困った行動”は、性格や認知症のせいだけでなく、ほとんどの原因が“老化”にあります。だから、改善や予防ができるんです」と明かすのは、彩の国東大宮メディカルセンター眼科部長の平松類先生。

 

平松先生は、眼科医として、のべ10万人の高齢者を診察してきた経験から、高齢者の“困った行動”の原因を分析。今年9月に『老人の取扱説明書』(SB新書)という本まで出版した高齢者のエキスパートだ。そこで今回、お年寄りのよくある困った行動のワケと、改善&予防法をうかがった。

 

【都合の悪いことは聞こえない、聞かない】

 

「82歳の義母は、私が『薬飲んだ?』と聞いても知らんフリなのに、往診に来たイケメン医師に、『具合どうですか?』と聞かれると『今日はいいね〜』って即答。私は気に入らないってこと?」(50代女性)

 

あるあるな話だが、「お母さんは“聞こえないフリ”しているのではなく、そもそもお嫁さんの話が聞こえていないのです」と、平松先生。

 

「70代では半数近くが、80代以上では70%以上が難聴というデータがあります。60歳以上になると、とくに女性が発する高音域の音は、“低い音”に比べて約1.5倍大きくないと聞き取れません」(平松先生)

 

私のことが気に入らないのね、と気を悪くすることなかれ。耳の老化で難聴になっているだけなのだ。では、お年寄りに聞こえるように話すコツはあるのか。

 

「低い声で、ゆっくり、正面から話すこと。補聴器をつけるのも効果的です。ただし、メガネとちがって、補聴器をつければすぐ聞こえる、というものではなくて、慣れるまでに時間がかかります。自分の耳に合うまで、5〜6回は購入したところで調整してもらいましょう」(平松先生)

 

【信号が赤でも、ゆっくり渡る】

 

「うちの母(85)は、信号が途中で赤に変わっているのに、堂々とゆっくり歩くんです。危なくて、何度手を引っ張ったことか……」(50代女性)

 

そもそも日本の横断歩道にある信号は、お年寄りに優しくないという。

 

「85歳を超えると歩幅が狭くなるので、平均で男性は1秒間に約0.7メートル、女性は約0.6メートルしか歩けなくなります。でも、日本の横断歩道にある信号は、1秒間に約1メートル歩くという前提でつくられているんです」(平松先生)

 

これでは、お年寄りが渡り切れないのも仕方がない。さらに、「そもそも信号機自体が見えていない」ということもあるようだ。

 

「高齢者は“眼瞼下垂”という、まぶたが下がる病気になっていることが多いので、上方に設置されている信号機がよく見えないのです。まぶたの下がりがなければ、上が45度以上見えますが、年齢を重ねてまぶたが下がると視野が狭くなる。上方視野が30度になると、7メートル離れないと信号機が見えず、20度では10.5メートル離れないと見えません」(平松先生)

 

眼瞼下垂を予防するためには「まぶたをこすらない」「コンタクトを長時間つけない」などのほか、目をぎゅっとつぶってから大きく開けるというトレーニングを1日10回程度行うとよいそうだ。

 

【夜中に何度もトイレ】

 

「83歳の父は、夜中に何度もトイレに行き、結局まだ外が真っ暗な4時ごろ起床します。ちゃんと眠れているのでしょうか。こちらも目覚めてしまって大変です」(60代女性)

 

深刻な夜中のトイレ問題。平松先生は次のように語る。

 

「高齢になると尿を濃縮するホルモンが低下し、尿が薄くなるので、悪い成分を体外に排出するために尿の量が増えるのです。“2時間に1回”といった頻度で、すぐにトイレに行きたくなるのは、このためです」(平松先生)

 

じつは「トイレに行けば行くほどトイレは近くなる」のだとか。

 

「ちょっとおしっこがたまっただけで、尿意をもよおすクセが膀胱につくからです。我慢のしすぎはよくありませんが、ある程度、膀胱におしっこがたまってからトイレにいくクセをつけましょう。また、夜は就寝4時間前には水分を控え、ノドが渇いたときにはがぶがぶ飲まずに少しずつ水分を摂取するのがベター」(平松先生)

 

頭を悩ませていたお年寄りの困った行動も、理由を知れば、優しい気持ちになれる。“老人のトリセツ”をマスターして、年老いた親ともうまく付き合おう!

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