料理に人生のすべてをかけてきた日本を代表するシェフたちが、人生の終わりに作りたい料理とは、誰のためのどんなメニューなのだろうか? そのときを想像しながら、巨匠が目の前で調理してくれた渾身の一皿。題して『マエストロたちの最後の晩餐』。明日、人生が終わるとしたら、あなたは最後に何を作りますか?
■『オテル・ドゥ・ミクニ』オーナーシェフ・三國清三さん
“世界のMIKUNI”が作る最後の料理がみんな大好きハンバーグ? しかも使うのは、合いびき肉、玉ねぎ、りんご、冷凍ミックスベリーなどなどスーパーで買える市販の食材ばかり? 肉をこねて焼くことからソース作りまで、フライパンを華麗に操り、魔法の手さばきで仕上げていく。
ふっくら肉厚のそれはナイフを入れるとジューシーな肉汁があふれ、デミグラスソースはりんごとベリーの酸味でまろやか。家庭でおなじみのメニューがアッという間にプロの味。その完成度にうならされる。
三國さんにとってハンバーグは「僕のすべて」と言うほど特別な存在。それは北海道・増毛の田舎町で育ち、札幌のお米屋さんに丁稚奉公していた10代のころのこと。そこの長女が栄養士で、いろんな洋食を作ってくれた。
「ある日、黒い塊が出てね。恐る恐る切ったら肉は軟らかいし、ソースは甘酸っぱいし。生まれて初めての味に『これ何だべ』って驚いて。料理名を聞いた瞬間に決めたんです。こんなハンバーグを作る料理人になろうと」(三國さん・以下同)
その後の成功物語は割愛するが、この体験がなければ今の三國さんはないだろう。
「これがまた日本の子どもが大好きな味というのがいいでしょう? 食育活動でも必ず子どもたちに教えてますよ」
最後に作るなら大学院生の娘さんのために。
「僕の味を残してあげたい。子どもが生まれたらまた伝えてくれるだろうし。ハンバーグは僕の神様ですから」
たった1つの料理が運命を変えることもある。だから人生は面白い。
【オテル・ドゥ・ミクニ】
素材そのものの力、味わいを引き出す、自然と同化したフランス料理「キュイジーヌ・ナチュレル」を提案。日本におけるフランス料理の発展を牽引している名店の1つ。