このたび、病気にならない100の方法を記した本を出版した藤田紘一郎先生(79)。じつは、人間の寿命は食生活の改善で、大幅に延ばせるという。長寿のための食べ方を聞いた――。
「人生100年時代といわれる昨今ですが、米国とドイツの人口学者の共同研究では『’07年生まれの日本人の半数は107歳まで生きるだろう』と推定されました。じつは人間の寿命のポテンシャルは思っているよりずっと長い。健康管理ができれば、125歳まで生きるのも理論上は可能です」
こう話すのは、寄生虫学の第一人者で新著『人生100年、長すぎるけどどうせなら健康に生きたい。病気にならない100の方法』(光文社新書)を5月に出版した、医学博士の藤田紘一郎先生だ。
この年になっても、まだまだ元気で健康。講演活動や研究と、現役で仕事に励む藤田先生。長寿のカギは「寿命の回数券の仕組みを知ることにあります」と続ける。
「人の寿命は『テロメア』という『寿命の回数券』の使い方で決まります。人の染色体を守っている構造体・テロメアは、生まれたときには約1万塩基対あるんですが、1年で50塩基対ほど減っていってしまうのです。これが約5,000塩基対まで減ると人は死ぬ。これが寿命の正体なのです」
計算してみると5,000に減るには100年かかることがわかるが。
「病気などになると、テロメアが余計に減少してしまい、100年あるはずの寿命はどんどん短くなる。『寿命の回数券を減らさない』方法は、まずは病気を遠ざけること、そして抗酸化作用のあるものなど、テロメアを守る栄養素を取ること。いずれも、生活習慣、特に食生活の見直しが必要なんです」
そこで藤田先生が「寿命の回数券を減らさない食べ方」を教えてくれた。
■納豆しらすでヤセ菌を増やす
「腸には約200種類の腸内細菌がいて、善玉菌と悪玉菌のほかに、そのどちらか優位なほうにつく日和見菌もあります。日和見菌には、糖質を多く吸収するデブ菌(フィルミクテス門)と、逆に糖質を強く吸収しないヤセ菌(バクテロイデス門)がいます。腸内にデブ菌が多い人は太りやすいうえ、がんの大きなリスク要因にもなる。一方、ヤセ菌が多いと太りづらく、糖化しにくくなるんです」(藤田先生・以下同)
ヤセ菌を増やす食事として藤田先生がすすめるのが納豆しらすだ。
「ヤセ菌自体の餌になるのは納豆や海藻に多く含まれる水溶性食物繊維です。さらに、納豆は血液をサラサラにする効果まである。ヤセ菌が大腸のなかで優勢になると、『短鎖脂肪酸』が多くつくられます。これは、血糖値を下げるインスリンの分泌をよくします。このインスリンの働きをよくするには、カルシウムとビタミンDが欠かせないのですが、両者を多く含んでいる食品がしらす干し。納豆としらすはよくあうので、一緒に食べてもいいでしょう」
■高FODMAP食が下痢と便秘の原因に
「納豆や海藻などの水溶性食物繊維を取ることは大事ですが、取りすぎはいけません。小腸内で細菌が増えすぎでSIBO(小腸内細菌増殖症)になり、便秘やガスだまりなどが起きてしまうんです」
納豆は「1日1~2パックまで」が適量だという。
「SIBOは、日常的に下痢や便秘を繰り返す過敏性腸症候群と関係があるとも考えられます。こういった症状がある場合、納豆などの発酵食品をはじめ、腸内細菌の餌になりやすい糖類である『高FODMAP』食は控えましょう」
『高FODMAP』の「FODMAP」は次の頭文字をとったもの。
【 発酵性(Fermentable)】納豆やヨーグルトなどの発酵食品。
【 オリゴ糖(Oligosaccharides)】豆類やたまねぎ、にんにく、小麦粉食品など。
【 二糖類(Disaccharides)】牛乳、ヨーグルトなどの乳製品。
【 単糖類(Monosaccharides)】りんご、なし、アボカド、プルーンなどの果物、はちみつなど。
+(And)
【 糖アルコール(Polyols)】マッシュルーム、カリフラワー、さつまいも、しいたけ、コーンなど。
■にんにくオイルに強い抗酸化作用が
「テロメアの減少を防ぐためには、抗酸化作用のある野菜を取ることも非常に有効です。野菜に含まれる抗酸化物質をフィトケミカルといいますが、特に多く含んでいるのがにんにくです。にんにくはアリシンという抗がん作用がある成分を含んでもいますので、がん予防も期待できます」
アメリカ国立がんセンターの研究によると、がん予防の可能性がもっとも期待できるのが、ガーリック、次いでキャベツだという。
藤田先生がおすすめしているのが、ガーリックオイルを作ること。作り方は、みじん切りにしたにんにくとオリーブオイルを熱湯消毒したびんに入れるだけ。
「オイルには、強力な抗酸化作用をもつビタミンEを豊富に含む、エキストラバージンオリーブオイルがおすすめです。冷暗所で保存すれば、1カ月は保存できます」
ふだん使う油はこれにするだけで、にんにくパワーを簡単に取れる。
■トマト、果物は朝に食べる
「トマトに多く含まれるリコピンもフィトケミカルの一種です。リコピンの吸収効率は、朝がもっともいいことがわかっています。また、果物もフィトケミカルが豊富なのですが、こちらは糖質も多く含むので、過剰に摂取すれば、AGE(糖とタンパク質の化合物=悪玉物質)の原因にもなる。夜に果物を取ると糖質を消費しきれずに体内に蓄えてしまうので、こちらも朝食べるのをおすすめしています」
“長寿細胞”を守る食べ方で、100歳を超えよう!