「おなか周りに内臓脂肪のついている人が、生活習慣の改善を試みなければ、やがて心筋梗塞など、重篤な心疾患につながる“エイリアン脂肪”に襲われます」
内臓脂肪に詳しい池谷医院院長の池谷敏郎先生はこう話す。“エイリアン脂肪”とは、心臓の周りにつく脂肪のことで、密かに動脈硬化を進めて、心筋梗塞や心不全を発症させる恐ろしい脂肪だ。
「心臓に寄生するかのごとく付着して、命を奪うことから“エイリアン”脂肪と呼ばれています」(池谷先生・以下同)
エイリアン脂肪は、専門的には異所性脂肪と呼ばれ、皮下脂肪、内臓脂肪に続く、「第三の脂肪」といわれている。
「エイリアン脂肪は、心臓の周囲を覆うようにして蓄積し、心臓を養う冠動脈などの組織へと細い血管を伸ばします。そして、その血管から、細胞にダメージを与える毒素が送り込まれるのです」
この毒素とは、本来は心臓周囲に溜まった異所性脂肪を溶かし、吸収されやすくするために分泌されるものだ。しかし、この毒素が、本来守りたい血管や心臓の細胞まで傷つけてしまい、動脈硬化や心臓の機能障害の原因となってしまうのだ。
怖さはそれだけではない。
「エイリアン脂肪が出す毒は、心臓の筋肉にも影響を及ぼし、筋肉の収縮力や拡張能力を低下させます。こうして心臓のポンプ機能が低下すると、心不全が起こりやすくなります」
エイリアン脂肪を持つ人の特徴をみると、肥満体形で、運動ぎらい、糖質過多の人に多いようだ。
「“糖化は老化”といわれるように、高血糖は細胞を刺激して炎症を引き起こし、肌荒れや見た目の老化を進めます」
特に、注意してほしいのが、若いころは痩せた体形だった人が中年になって太ったという場合だ。
「もともと痩せていた人は、内臓脂肪を溜め込む容量が少なく、急に太ると肝臓、心臓に脂肪がつきやすいのです」
また、女性は閉経を迎えたあたりから体形が変わりやすくなる。
「女性ホルモンのエストロゲンは、いわゆる“痩せホルモン”です。ですから、若いころは、エストロゲンのサポートが効いて、わりと体形のコントロールがしやすいのですが、閉経を迎えてエストロゲンが枯渇しても以前と同じような生活習慣でいれば、もはや若いころのように体形のコントロールはできず、太りやすくなるのです」
いったん動き出すと恐ろしいエイリアン脂肪だが、対策もある。
「脂肪の中でいちばん落としやすいのがエイリアン脂肪で、食習慣を改善することで、早ければ2~3日で落ち始めます。多くの場合、肥満の原因は、糖質過多、脂肪分過多の食事です。私は、まず糖質ないしは炭水化物を半分に減らすことをすすめています。でも、それでは全体の量は足りないと思いますので、食物繊維を多く含んだ緑黄色野菜や大豆、きのこ類の量を増やし、パンやごはん、麺などの炭水化物の量を半分に減らすようにしましょう」
きちんと実践すると、心臓周囲とともに、内臓脂肪が減り始める。
「私の患者さんでこの“ゆる糖質制限”をきちんと実践している人は、ほぼ全員成功しています」
食事を改善することで、体の酸化が抑えられるため、肌や髪にツヤやハリが出たり、疲れにくくなるなど、そのほかの嬉しい変化も期待できるそうだ。
「女性自身」2020年1月28日号 掲載