「お待たせしました〜」
店員さんのこんな一言とともに記者の目の前に現れたのは、その名も「MUSHIパフェ」。パフェの上にドーンと鎮座しますのは体長5センチはあろうかという立派なタガメ。6本の脚でアイスクリームにしがみついている。よくよく見れば、タガメ以外にもコオロギ、それに小さな甲虫の幼虫・ミールワームのトッピングも(し、しかも何匹も!)。
これ、虫が苦手な人なら、タガメと目が合っただけで卒倒もの。「こんなの注文する人いるの?」と思っていたら、お店の人からは意外な答えが。
「うちの人気メニューの1つなんですよ」
こう笑顔で話すのは、昨年11月に華々しくリニューアルオープンした渋谷パルコの地下レストラン街に出店した「鳥獣虫居酒屋・米とサーカス」のブランディングディレクター・宮下慧さん。
「当初、昆虫食メニューについては『お客さまに受け入れられるのだろうか』と多少、心配もしていたんです。でも、蓋を開けてみれば驚くほどの反響で、たくさんの方が注文してくださっています。こちらの想像以上に、昆虫食への関心が高いことがわかりました」
いま、世界的に、食材としての昆虫に注目が集まっている。
「きっかけは’13年に国連の食糧農業機関(FAO)が公表した報告書です」
こう教えてくれたのは、食用昆虫科学研究会の副理事長で、『昆虫を食べる!』(洋泉社)という著書もある水野壮さん。
10年後に世界の人口が90億人近くに達するといわれるなか、そこで生じるであろう食糧問題の解決策の1つとして、同報告書では、昆虫を食用としたり家畜の飼料にしたりすることを推奨している。
「おいしく食べることができる虫は、いくらでもありますよ」(水野さん)
FAOの報告書が出る前から昆虫食を実践、研究している水野さんに、なかでもオススメの虫と、その食べ方を聞いた。
「蚕のサナギはとても美味です。新鮮なものが入手できたら、スモークしていただくと、クリーミーでコクがあって。少し苦味のある大人向けのチーズみたいになる。癖になる人、少なくないと思います。あとはトノサマバッタ。とくにオスより一回り大きくて、卵を抱えているメスがオススメ。ゆでたり揚げたりして熱を加えると、卵のツブツブ感が消えてホクホクした感じで甘味もあって。薄味のさつまいもみたいになるんです。食べてみたくなりませんか?」
う〜ん、たしかにちょっと味見してみたい気も。ということで、冒頭で紹介した「米とサーカス」に突撃取材、いや、突撃試食!
「タガメは殻が硬いので、ハサミを使って解体して、中の身を食べてくださいね」
同店の宮下さんに教わりながら、タガメの腹をハサミでチョキチョキ。スプーンで身をかき出し、思い切って口に……ん? なにやら口いっぱいに果実のような爽やかな香りと味が!? 悪くないかも。
「タガメのオスのフェロモンは、西洋梨のラ・フランスのような香りがすると言われてるんですよ」(宮下さん)
見た目のインパクトと味のギャップに戸惑いつつ、今度はアイスと一緒にコオロギ&ミールワームをパクリ。これまた、意外にも加熱処理された虫たちのサクッとした食感と香ばしさが、甘いアイスやホイップクリームのアクセントになって……、正直、おいしい!
固定観念のハードルはまだまだ高いけど、それを乗り越えてしまえば……あなたの家の食卓に、蚕やバッタが並ぶ日も遠くないかも。
「女性自身」2020年2月11日号 掲載