「高血圧は、動脈硬化のほか、心筋梗塞や脳卒中、腎臓病のリスクも高めてしまいます。しかし、高血圧には自覚症状がほとんどありません。静かに病気を進行させ、ある日突然に心筋梗塞や脳出血といった深刻な病気を引き起こすため、“サイレントキラー”とも呼ばれています」
こう話すのは、循環器疾患が専門で「ミスター血圧」の異名をとる渡辺尚彦先生だ。
’17年に厚生労働省が行った健康調査によると、日本で高血圧と診断を受けている人は約994万人。しかし、実際は約4,300万人が高血圧だという推測もされている。
渡辺先生は常に血圧計を腕につけ、自身の血圧をじつに24時間32年以上にわたって測り続けている。患者さんに対しても、エビデンスとなるデータをとりながら、薬に頼らないさまざまな降圧方法を模索している。
高血圧の原因には、加齢、塩分の取りすぎ、肥満、喫煙、ホルモンの変化、などが挙げられる。
「日本人の場合、高血圧の最大の要因は塩分の取りすぎだといわれています。そのため塩分コントロールは極めて大切です」(渡辺先生・以下同)
また、女性は更年期を迎えるころから、血圧の変化に気をつけるべきだと渡辺先生は指摘する。
「更年期の女性は、女性ホルモンが減少すると同時に血圧が上がり始める傾向にあります。女性ホルモンは血管を拡張させる働きをしてくれるため、『若いころは低血圧気味だった』という人も少なくありません。しかし、そういう人でも、更年期を経ていつの間にか血圧が上がっていたということがよくあります。自覚症状がありませんから、血圧を測定するしか変化に気づく方法はありません。家庭用血圧計で構いませんので、40代以降は日常的に血圧を測ることをおすすめします」
家庭で血圧を計測する際には、いくつか気を付けることがある。日本高血圧学会では正常域血圧を140mmHg/90mmHg未満としている。上の血圧が140以上、あるいは下の血圧が90以上だと高血圧を診断される。
「できれば一日の中でも、起床後、睡眠前など複数回計測すると変化がわかるようになりますし、自分の血圧の傾向も把握できるようになるでしょう」
早朝だけ数値が高い「早朝高血圧」や、寝ているときだけ高い「夜間高血圧」などがあるように、血圧は一日の中でも常に変化していて、精神的・身体的な活動状況によっても数値が変わりやすい。朝の目覚めとともに血圧は上昇し、日中は比較的高く、夜になると下がり、睡眠時はさらに降下する。ほかに、室内と室外の気温差や、ストレスを受けることでも数値が上下する。また、ふだんは正常値なのに、病院で血圧を測ると数値が高く出るという人は、白衣高血圧の疑いが。逆に、病院では正常値なのに、家庭では高血圧だという人は、仮面高血圧が疑われる。これは薬を飲んで血圧がコントロールされている間に診察を受ける人に多い。
ほかに、血圧をあげてしまう生活習慣には次のものがある。
□喫煙
□入浴時の極端な寒暖差
□硬いものを食べる
□締めつけのある下着をつける
□イライラする
□肥満体形である
「煙草を1本吸うと、収縮期血圧(上の血圧)が4mmHg上がるとされています。ところが、2本立て続けに吸うと収縮期血圧に10mmHg以上の上昇が見られるのです。そして、上がった血圧はなかなか戻りません。つまり、ヘビースモーカーは血圧の高い状態が長時間続いてしまうことになります」
急に冷たいものを飲んだり、冬場のトイレや脱衣所など、室温の低い所で着衣を脱ぐこともリスクを上げる。そのほか、女性が着用するガードルやボディスーツなど、強く体を締めつける下着なども血圧を上げるという報告があるという。
「きつい締めつけは、血圧だけでなく、内臓を圧迫して呼吸器官や消化器官に負担をかけることにもなります。過度の使用は避けるべきでしょう」
一般的に、高血圧の治療には、減塩、運動、節酒、禁煙といった生活習慣の指導を行いながら、降圧剤を服用する。
治療薬は、大きく4つのタイプに分けられる。(1)血管を広げるカルシウム拮抗薬、(2)血管を収縮する体内の物質をブロックするARB、ACE阻害薬、(3)血中の食塩と水分を減らす働きをする利尿薬、(4)心臓の過剰な働きを抑えるβ遮断薬だ。
とはいえ、薬を一生服用し続けなければならないわけでもないと渡辺先生は言う。
「減塩の食生活を中心に、日常的に運動したり、降圧する生活習慣を心がけることで、血圧のコントロールは可能です」
「女性自身」2020年2月11日号 掲載