「腎臓の機能が低下してしまうと、通院で回復させるのは難しい」。腎臓内科の医師はそう語る。健康な腎臓を保つためには、多少“キツい”運動も心がけるべしーー。
「いまや成人の8人に1人が『慢性腎臓病』にかかっている。これは、“国民病”といわれる糖尿病の患者より多いのです。しかも慢性腎臓病は、かなり症状が進行しないと自覚症状が現れません」
そう警鐘を鳴らすのは、東北大学大学院教授を務める腎臓専門医の上月正博先生だ。血液をろ過して、老廃物を体外に排出する機能を持つ腎臓。血液や骨の組成、そして血圧の維持にも関係しており、生命維持に欠かせない臓器だ。
「腎臓の機能が徐々に衰えていくことを慢性腎臓病と言います。罹患者は50代から少しずつ増加し、60代では15%、70代では30%、80代では50%があてはまるほど。しかも、慢性腎臓病で腎機能が低下してしまうと、通院治療での回復が見込めません。結果、医療費負担の高い透析治療を行うことになってしまいます」
日本の透析患者数は、高齢化に伴って急増しており、現在は33万4,000人以上。症状に気づかず放置した結果、60代後半で透析になる人が多いという。慢性腎臓病になりやすいのは、どんな人なのか。
「高血圧、糖尿病、肥満やメタボなど、いわゆる生活習慣病にかかっている人。加えて喫煙者は、非喫煙者に比べて腎機能が早く低下します。さらに、頭痛薬や生理痛などの鎮痛剤を常用している人や、過去に常用していた人は、腎機能が低下しやすい。一時的な使用なら問題ありませんが、長時間の服用は控えたいものです」
腎臓が健康なときの3割程度しか機能しなくなると、体に老廃物がたまり、さまざまな症状が。
「いちばんわかりやすい症状は“むくみ”や“疲れやすさ”。そして、尿の色やにおいなどにも変化が表れます。早期発見のためには、毎年、健診を受けるしかありません」
検査で腎機能の低下が判明した人も含め、慢性腎臓病の予防のために実践してほしいのが“腎臓リハビリ”。
「腎臓リハビリの基本は、“まず運動、つぎに食事”です。これまで腎臓病患者は、運動すると尿にタンパクが出て病状が悪化するという理由で、運動制限を受けていました。しかし、適度に運動をしたほうが生活機能の向上につながり、腎臓病を予防・改善できることが多くの研究でわかってきたんです」
透析に至っていない慢性腎臓病患者のグループに、週3回・1日40分のウオーキングを続けてもらったところ、運動をせずに治療だけを受けたグループよりも、腎機能の改善効果が見られたという。
運動のポイントは次のとおり。
「運動療法には、(1)有酸素運動、(2)筋トレ、(3)ストレッチの3本柱があります。なかでも大事なのが有酸素運動。ウオーキングを週に3〜5回、1日20〜60分行うのが目安です。たとえば、週3回ウオーキングをするなら、1日60分程度。週5回なら、1日20分程度と考えてください。息切れするような運動は逆効果ですので、軽く汗ばむ程度にしましょう」
■上月先生が指導!「太ももを鍛える筋トレ&ストレッチ」
【スクワット】目標・5〜10回×3セット
(1)足を肩幅より少し広く開いて、つま先は少し外側に。椅子の後ろに背筋を伸ばして立ち、背もたれに両手を添える。
(2)息を吸いながらひざをゆっくり曲げ、息を吐きながらひざをゆっくり伸ばす。
【太もものストレッチ】目標・左右それぞれ3〜5回1セット
(1)椅子の後ろに立ち、右手で椅子の背もたれを持つ。
(2)左ひざを曲げて左手で足先をつかみ、左足首を背中側に引き寄せる。10〜30秒キープして、ゆっくり元に戻す。反対も同様に行う。
少しキツく感じるかもしれないが、筋トレは、週に2〜3回を5分程度。ストレッチは時間があるときだけでもOK。
食事の基本は、「塩分」と「タンパク質」の摂取を抑えること。
「みそ汁は一日1回にする。ラーメンは汁まで飲まない。スナック菓子を控える、など注意するだけでも塩分を控えられます。腎機能の低下が進んでいる人は、タンパク質を多く含む米やパン、麺類を、タンパク質の少ない加工食品に替えるか、おかずのタンパク質を減らすこと。食事制限は病状に依存するので、医師に相談しながら進めましょう」
また、腰痛・膝痛などの痛み止めの長期服用も要注意。できるだけ、湿布などの外用薬に切り替えるようにしたい。
透析治療の医療費は、1カ月に1万〜2万円ほどの自己負担を強いられる。出費を防ぐためにも、健康な腎臓の維持に努めよう。
「女性自身」2020年3月3日号 掲載