画像を見る

「寝ぼけまなこで夜中トイレに起きたら、階段でコケてしまいまして……。まだ若かったから骨にヒビが入った程度で済んだのかもしれませんが、もう少し年を取ってから転んだら大事になるから気をつけるように、と病院でもクギを刺されました」

 

苦笑しながらそう打ち明けるのはB子さん(69)。2階にある寝室から1階のトイレまで、狭い階段の手すりをつたって下りようとしたのはいいが、夜中に階段の電気をつけてしまうと、その後、目が覚めて眠れなくなってしまう。そこで、電気をつけずに階段を下りたところ、踏み外してしまったというのだ。

 

「夜間頻尿はQOL(生活の質)を損ないます。よくある話のひとつに、夜中にトイレで起きたとき、もうろうとしていて転ぶことがあります。暗い室内や、2階の寝室から1階に下りるときに階段を踏み外して転ぶケースも多いようです。特に高齢者の場合は、大腿骨頸部骨折や脳挫傷など大ケガがきっかけで、その後、要介護状態になるリスクが高まりますので注意が必要です」

 

そう話すのは、国立長寿医療研究センター副院長で泌尿器科が専門の吉田正貴先生。

 

また、夜中に何度も起きることで睡眠の質が悪くなり、それに比例して、日中の生活の質も下がってしまうという。睡眠の質の低下が自律神経の乱れを呼び、さらにさまざまな障害を招いてしまう“負の連鎖”が起きてしまうのだ。

 

人間の体は、昼間は「交感神経」が優位になるので、活発に動くことができ、夜は「副交感神経」が優位になりリラックスするのでぐっすり眠ることができる。

 

ところが、この自律神経の切り替えが悪くなると、さまざまな体調不良が現れるように。疲れが取れないので、「頑張ろう」という気力も損なわれ、結果的に気分の落ち込みが激しくなり、不安感が強くなって“うつ”の症状を起こしてしまうこともある。

 

「『何回も夜中に起きるので睡眠不足で体がだるい』と訴える患者さんもいます。昼間ぼんやりしてしまい、無気力状態から、うつ症状になるリスクが高まってしまうのです。このように夜間頻尿を放っておくと睡眠不足から2次、3次的な体調不良が起こります。昼間にウトウトしながら車を運転してしまい、ブレーキを踏むタイミングが遅れて追突事故を起こしたというケースも報告されています」

 

東北大学医学部泌尿器科の研究チームが、70歳以上の高齢者を5年間追跡調査したところ、夜中に1回トイレに行く人の死亡率を1とした場合、2回の人の死亡率は1.59倍、3回の人は2.34倍、4回以上になると3.6倍と、夜間にトイレに行く頻度が高い人ほど、死亡率が高くなることがわかった。睡眠不足のまま過ごしていると、転倒骨折、うつだけでなく、死亡リスクまで引き上げてしまうことになるのだ。

 

睡眠の質の低下によるリスクを避けるためにも「夜間頻尿」を放っておいてはいけない。

 

「女性自身」2020年9月22日 掲載

【関連画像】

関連カテゴリー:
関連タグ: