巣ごもり生活が長引き、外出する機会が減ったことで、運動不足の人が急増している。「平らな道を歩いてつまずくようになった」「階段を上がるのがつらい」「布団の上げ下ろしがきつい」など、日常生活の中で衰えを感じる場面が増えてきたら要注意!
「コロナ禍で、外出を控えている人も多いと思います。特にコロナに感染すると重症化が懸念される糖尿病などの持病がある人はひきこもりの状態だとも聞きます。外出しないことでコロナに感染するリスクは軽減できますが、1日の活動量が減ることは、健康で長生きするためには大きなマイナスとなってしまいます」
そう警鐘を鳴らすのは、順天堂大学医学部附属順天堂医院循環器内科准教授の横山美帆先生だ。健康で長生きするためには“自力で動ける体”をいつまでも維持することが重要となる。
「日々の活動量が減ってくると、筋肉の量が少なくなり、関節の動きが悪くなります。また、体が硬くなり、骨がもろくなるだけでなく、心肺機能も衰えてしまいます。また、外に出るのがおっくうになり、人と接する機会が減ると、認知機能の低下にもつながってしまいます。人の体はとても賢くできていて、体を動かさないと脳が『この機能はここまで必要ない』と判断して、縮小していきます。そして運動機能が衰えると、“フレイル”に陥ってしまいます」(横山先生・以下同)
フレイルとは、日本老年医学会が提唱した概念で、健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態のことをいう。
フレイルのリスクを軽減するために、順天堂大学医学部健康スポーツ室が考案したのが「長生き部屋トレ」だ。
「大学病院の健康スポーツ室が医学的エビデンスに基づいて開発したトレーニング法で、元々はスポーツ室を利用している方たちに向けて、自宅でも安全に行えるようにと体操を動画で公開したのがきっかけです。健康寿命(医療や介護に依存しないで自立した生活ができる生存期間)を延ばすカギを握るのは『脚の筋力』『バランス力』『柔軟力』『握力』の4つ。長生き部屋トレではこれらを鍛えることを目標としています。シンプルな動作ですが、週2〜3回、無理のない範囲で続けることで、やった分だけ体に変化が表れてきます」
筋肉は30歳前後をピークに衰えてくる。40歳以降では、運動習慣がないと年1%の割合で減少していく。筋肉や骨と同じように、関節もまた加齢とともに機能が衰えてくる。関節をスムーズに動かすための潤滑油である滑液の分泌が悪くなり、関節の周辺にある靱帯や腱が硬くなることが原因だ。関節が硬いと、バランスを崩しやすくなり、転倒したときにはケガをしやすくなる。この点で「柔軟力」を鍛えることがケガの予防にもつながるのだという。
トレーニングを始める前に、まず、次の簡単なテストで「柔軟力」をチェック。自分の体のコンディションレベルを確認してみよう。
■「柔軟力」前屈テスト
【1】脚を前方に伸ばして座る。
【2】上体を前に倒し、両手を前に伸ばす。手がどこまで届くかチェック。
※自然な呼吸で、反動をつけて倒さないように行う。
〈手が届くところで判定〉合格:つま先、要注意:足首、危険:すね。
前屈テストで手がすねにしか届かない人は、「イスに座って裏もも伸ばし」を。
■「イスに座って裏もも伸ばし」目標:左右20秒×2セット
【1】イスに浅く腰かけ、左脚を伸ばす。上半身はリラックス。
【2】左足のつま先を立て、反動をつけず上体をゆっくり倒して20秒キープ。つま先を立てることで、太ももの裏側だけでなく、ふくらはぎまでストレッチできる。
【3】脚を入れ替えて同じように行う。動作中は息をこらえず、自然な呼吸を行う。
「座ってばかりの生活は、体を衰えさせる危険があります。これは、太ももの裏側の筋肉が縮んだままになり、伸びづらくなってしまうためです。『危険』の判定が出た人は、イスに座りながらできる『イスに座って裏もも伸ばし』から始めましょう。最初は手が届かなくても、無理に届かせようと反動をつけるのはNG。ひざの裏を伸ばすようにして、少しずつ手が前に届くようにしましょう」
さらに、テストで「要注意」あるいは、「イスに座って裏もも伸ばし」で足首まで手が届くようになったら、床に座って太ももからふくらはぎまで全体を伸ばしてみよう。
■「床に座って裏もも伸ばし」左右20秒×2セット
【1】床に座り、右脚を伸ばしてつま先を立て、左脚は内側に曲げる。
【2】伸ばしている足先に向けて、反動をつけず上体をゆっくり倒して20秒キープ。つま先を立てることで、太ももの裏側だけでなく、ふくらはぎまでストレッチできる。
【3】脚を入れ替えて同じように行う。動作中は息をこらえず、自然な呼吸で行う。
「股関節が硬いと歩幅が狭くなり、足が上がらなくなるので転倒リスクが高まります。床に座ったときに股関節を開いてほぐすと、相乗効果が期待できます」